2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of spintronic functions inherent in molecular orientations
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19K03723
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中 惇 早稲田大学, 高等研究所, 講師(任期付) (60708527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
妹尾 仁嗣 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (30415054)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子性導体 / 電子相関 / スピン流 / スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、分子性導体の分子配向と電子相関効果の双方に立脚し、スピン軌道結合を必要としない新しいスピン流生成現象を探索を目的として以下の研究を行った。1) κ型分子性導体の特徴的な分子配向と分子配列構造を取り入れたハバード型モデルおよびその強結合有効ハイゼンベルグモデルを構築し、これらのモデルを平均場理論とスピン波理論を用いて解析することで、単純な反強磁性ネール状態においても電子やマグノンのエネルギーバンドにスピンに依存した非自明な分裂が生じることを見出した。さらに摂動展開を用いた理論解析により、スピン分裂の起源がスピンの方向に依存し、かつ分子配向を反映した異方的な電子遷移積分にあることを明らかにした。これは従来のスピン軌道結合とは異なり、電子相関と物質構造から創発する新しいタイプの"スピン軌道結合"とみなすことができる。2) 1)で見出したスピン分裂を伴う反強磁性相において、スピン流の外場応答を線形応答理論を用いて解析した。その結果、反強磁性絶縁体状態においては温度勾配を印加することで、マグノンによる純粋スピン流が生成されることを見出した。また、この相にキャリアドープした反強磁性金属相では、電場によるスピン流生成が可能であることを明らかにした。これらのスピン流生成現象は、異なるスピンを持つ電子やマグノンが、異方的な遷移積分によって互いに逆方向に整流されることで生じる。また、スピン流生成を特徴づける伝導度テンソルは対称テンソルで表され、その結果特徴的な外場角度依存性を示す。これは反対称テンソルで表されるスピンホール効果やスピンネルンスト効果とは本質的に異なる現象であることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度に計画していたκ型分子性導体におけるエネルギーバンドのスピン分裂の微視的起源の解明だけでなく、電場や温度勾配を用いた新しいスピン流生成現象を理論的に予言・提案することに成功した。また、得られた成果はNature Communications誌に掲載され、同誌のEditors' Highlightsにも選出された。これは当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、この特徴的なスピン分裂の発現条件をより幅広い系に一般化し、有機導体だけでなく無機化合物も対象とした新しいスピン流生成現象の探索・提案を行うと共に、従来の原子由来のスピン軌道結合との競合・協力効果の解明を行う。また、軌道や電荷などスピン以外の自由度の長距離秩序と分子配向の結合による新しい輸送現象の探索も視野に入れる。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染拡大の影響により、一部の出張計画をweb上のミーティングに変更したため。差額分は次年度の短距離の国内旅費に使用する予定。
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Research Products
(11 results)