2019 Fiscal Year Research-status Report
Anomalous physical properties according to freedom of multipole for filled skutterudite compounds
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19K03735
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Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
関根 ちひろ 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (60261385)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椎名 亮輔 琉球大学, 理学部, 教授 (30326011)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 多極子 / 充填スクッテルダイト / 金属ー絶縁体転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
『多極子』とは、固体中の電子状態に起因する電荷・磁荷分布の異方性を特徴づける物理量である。近年、強相関電子系化合物に多数見出されている「隠れた秩序(Hidden Order)」を解明する上で、高次多極子が重要な鍵であることが分かってきた。『充填スクッテルダイト(filled skutterudite, FSK)』は、こうした多極子研究において最も重要な物質群の一つであり、中でも特筆すべき現象として、PrRu4P12 , SmRu4P12 が示す局在f電子の持つ多極子自由度と結晶場状態に依存した遍歴電子との混成効果が関与する金属-非金属転移が知られている。本研究では、これらの現象に関する近年の研究の新展開を踏まえて、SmRu4P12 および関連物質を対象とした。高圧合成法により、純良試料の合成を行い、中性子散乱、核磁気共鳴(NMR)などの微視的な実験研究と理論的研究により、FSKにおける多極子自由度が関与する異常物性の発現機構の解明を目的とした。本研究の成果は、強相関電子系の多様な秩序状態の解明はもとより、新規磁性材料の開発の基礎にも繋がってゆくことが期待される。 このような研究目的の下、本年度はマルチアンビルプレスを用いた高圧合成法により、充填スクッテルダイト化合物SmRu4P12、およびRuサイトをRhで置換した試料Sm(Ru1-xRhx)4P12の試料合成を試み、不純物相のほとんどない純良な試料の合成に成功した。さらに、得られた試料に関する磁化、電気抵抗、比熱等の基礎物性測定を行った結果、SmRu4P12の金属-非金属転移(16.5 K)は、Rh置換に対し非常に敏感であり、少量のRh置換で転移が消失すること、転移が消失した試料において、低温で磁化率が発散的に上昇することなどを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試料合成:本研究の対象物質であるSmRu4P12 およびRh置換系Sm(Ru1-xRhx)4P12の最適合成条件を見出し、純良試料の合成に成功した。今後、中性子散乱、核磁気共鳴などの微視的な測定に使用するための試料量産体制を確立することができた。さらに、GdRu4P12, TbRu4P12, DyRu4P12など関連物質の純良試料合成のための最適合成条件決定に対して重要な情報を得ることができた。 Rh置換効果:Sm(Ru1-xRhx)4P12に関する磁化、電気抵抗、比熱等の基礎物性の測定を行うことができた。その結果、SmRu4P12の金属-非金属転移(16.5 K)は、Rh置換に対し非常に敏感であり、少量のRh置換で転移が消失すること、転移が消失した試料において、低温で磁化率が発散的に上昇することなど新たな知見を得ることができた。 理論研究:本年度の実験研究で明らかとなった結果を考慮し、SmRu4P12における多極子が関与する転移の機構解明のための理論モデル構築を進めることが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
試料合成に関しては、本年度の結果を踏まえ、研究代表者が中心となって、中性子散乱、核磁気共鳴実験等の微視的な磁気測定に使用するためのSmRu4P12の純良試料およびTbRu4P12、DyRu4P12、HoRu4P12、TmRu4P12 等の関連物質の純良試料の合成を引き続き行う。 中性子散乱実験、核磁気共鳴実験に関しては、研究協力者と共に実験を行い、低温秩序状態の磁気構造および結晶場状態を詳細に調べる。実験結果を基に、研究分担者による理論モデルの構築と理論的な考察により、SmRu4P12の秩序相における秩序変数の決定を目指す。 さらに、TbRu4P12、DyRu4P12、HoRu4P12、TmRu4P12 などの類似物質についても、基礎物性測定および中性子散乱実験、核磁気共鳴実験等の微視的な磁気測定を展開し、実験結果に基づく理論モデルの構築を行い、多極子自由度と結晶場状態に依存した遍歴電子との混成効果について、充填スクッテルダイト系に共通した特徴を明らかにする。 現在、新型コロナウイルス感染症の拡大により、実験研究の中止を余儀なくされている。実験再開までには時間がかかると思われるため、当面は、これまでに得ている実験結果に関する考察と理論研究をモデルの検討を中心に進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
成果報告を予定していた日本物理学会年次大会参加のための旅費として計上していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、当該学会が開催中止となったため残額が生じた。今年度発生した次年度使用額分は、価格が高騰している白金族の合成用の試薬の購入のために使用する。
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