2020 Fiscal Year Research-status Report
高圧力下中性子回折実験による超伝導と競合する重い電子反強磁性状態の研究
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19K03737
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
池田 陽一 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40581773)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中性子 / 圧力効果 / 重い電子系 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの重い電子超伝導体とは一風変わった温度圧力相図を示すCeNiGe3における圧力下で現れる超伝導と共存する磁気相Iと、競合する磁気相IIの性質の解明を目指し、5万気圧程度の圧力下で、1イオンあたり1ボーア磁子程度の微弱な磁気信号を検出できる圧力セルの開発と、それを用いた圧力下中性子回折実験を進めている。本年度はこれまでに開発した圧力セルの動作試験を行い、室温で3から4万気圧程度の加圧に成功した。さらに大強度陽子加速器研究施設の物質生命科学実験施設にて、我々が開発した圧力セルを用いた中性子実験を行い、極低温の圧力下において磁気および核ブラッグピークの観測に成功した。発生圧力は目標の大凡四分の一の1万気圧程度であるため、さらなる改良は必要であるものの、圧力下で微弱な磁気信号を観測するという初段の目的を達成することができた。またこの実験により、比較的低い圧力(大凡2万気圧)において、a軸長とc軸長の大小関係が入れ替わる直方晶-直方晶変移が加圧により生じている可能性を見出した。その変移が圧力誘起超伝導や高圧力下磁気相(II)の発現に関係している可能性も考えられる。最終年度の研究では、直方晶-直方晶変移と圧力誘起超伝導の関係解明を進め、さらに高圧の磁気相(II)の性質の解明のために、引き続き圧力セルの改良を行い、圧力下中性子回折実験を進める予定である。また単結晶試料を用いて3万気圧程度までの電気輸送特性と磁気特性を詳細に調べ、電子状態に対する直方晶-直方晶変移の影響を明らかにする。 並行して進めていたイッテルビウム系重い電子化合物の研究においては、磁性イオンが希薄な場合においても磁化の非線形増加が起こることを実験的に明らかにし、縮重度の大きな場合の近藤効果との関連性を議論した。この成果は学会発表と修士論文としてまとめられ、最終年度中に学術誌への投稿を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はこれまでに開発した圧力セルの動作試験を進め、室温で3から4万気圧程度の加圧に成功した。また圧力下電気抵抗測定システムを立ち上げ、室温から4ケルビン程度までの温度範囲の測定が可能となり、加熱システムと組み合わせることで室温~60℃程度の温度範囲において、電気抵抗等の等温圧力変化を測定することも可能となった。さらに大強度陽子加速器研究施設の物質生命科学実験施設にて、開発した圧力セルを用いた中性子実験を行い、極低温・圧力下において磁気信号および核ブラッグピークの観測に成功した。この実験により、当該物質において圧力下で微弱な磁気信号を観測に成功し、加えてa軸長とc軸長の大小関係が入れ替わる直方晶-直方晶変移が生じている可能性を見出した。その構造変移と超伝導および高圧の磁気相の関係解明のためには、引き続き圧力セルの改良を必要とする。現状、室温における発生圧力は3-4万気圧となっており、実験を進めるためには、最終年度中に4-5万気圧程度の圧力を安定して実現する必要がある。セルの改良案や計画は概ね検討できているものの、実施には時間を要するため、区分はやや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究により明らかになってきた直方晶-直方晶変移と圧力誘起超伝導・高圧力下磁気相の関係を調べる予定である。そのために中性子実験と並行して、3万気圧程度までの電気抵抗と磁化の測定を行い、それらの物理量の異方性と圧力変化を明らかにする。これらの測定により、これまで捉えどころのなかった低圧下反強磁性相中の電子状態の変化の検出と、その原因究明を試みる。また、より効率的に高圧下中性子実験を進めるために、以下の改良等を進める。1.ルビー蛍光法による圧力モニターシステムの構築、2.低温における発生圧力や静水圧性を評価するために、交流磁化率測定システムを構築し、補助的な圧力モニターシステムを準備する、3.圧力発生効率を向上するためにガスケットの形状等を工夫する、4.中性子実験時のバックグラウンドを低減するために、遮蔽材とコリメータの工夫を進める、5.極低温実験を効率よく進めるために、圧力セルの熱伝導を向上させる。
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Causes of Carryover |
取扱停止のため購入を見送ることになった2019年度購入予定の卓上放電加工機について、2020年度も引き続き代替機種の選定を行ったが、適当な機種がなく購入を断念した。その代替として、圧力セルの部品と性能試験のための消耗品を購入した。繰越と最終年度の助成金は、圧力セル等の部品(消耗品)の購入に充てる予定である。
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