2020 Fiscal Year Research-status Report
強磁性状態の電気伝導をプローブとしたルテニウム酸化物の低温下水素吸着・吸蔵の研究
Project/Area Number |
19K03743
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
神原 浩 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (00313198)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ルテニウム酸化物 / 水素吸着 / 水素還元 / 界面敏感プローブ / 電気伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,160 K以下で強磁性状態へと相転移する金属ルテニウム酸化物SrRuO3(以下SRO)を用いて,酸化物が水素雰囲気下で受ける影響について電気伝導をプローブとして調べている。バルク敏感な測定方法(4端子法)と界面敏感な測定方法(3端子法および点接触法)を適用することで,試料内部と界面を分離して考察が可能である。これまでに,室温・水素雰囲気下ではSRO内部は影響を受けないが,界面抵抗は水素導入直後から抵抗が上昇し続けていくこと,それが数十℃程度高温では抵抗上昇率が数倍程度上昇すること,また点接触法により,SRO表面に接触させる電極の材質を変えると,金(白金),銀,銅,鉄の順に抵抗上昇率が小さくなることなどを見出した。200℃程度以上の水素雰囲気下では,水素での還元によりバルクの電気抵抗は大きく上昇することは以前より知られていたが,界面付近に限ると室温でも水素による還元が進行していることを見出した。電極材質による抵抗上昇率の違いはSROと電極との間の酸素を介しての結合の安定度に依存し,例えば,銀の方が銅よりも水素雰囲気下で不安定で還元されやすく,界面での電気抵抗が上昇しやすいとして理解されることが分かった。令和2年度は,界面での電気抵抗変化が還元反応に基づくものであることを明確にするために,水素雰囲気下に続けて酸素雰囲気下に曝し,3端子法で長時間測定により調べた。その結果,酸素雰囲気下では水素とは逆に電気抵抗が減少していくこと,電極となる導電性接着剤を銀エポキシと銅エポキシで比べた場合,銀の方が約10倍程度大きな抵抗変化率(水素による抵抗上昇と酸素による抵抗減少)を示すこと,また,抵抗変化率の温度変化から0℃付近で抵抗変化が止まることを予測することができた。いずれの結果も界面における還元・酸化反応による電気抵抗変化の描像と矛盾しないことを確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年目終了時に掲げた2年目の課題として,以下の4項目を挙げた。(1) SROのRuまたはSrを他元素で部分置換した混晶系物質での測定,(2) 最もシンプルなルテニウム酸化物RuO2での測定,(3) 水素吸蔵金属Pdにおける4端子(バルク敏感)法と3端子法による内部水素吸蔵と界面水素吸着による抵抗変化の反応時間の遅れの検証,(4) 3端子法と点接触法の界面水素還元反応プローブの応用(例えばAg2Oの還元に伴う伝導度変化の測定など)。この4項目以外に,界面でのSROの電気抵抗上昇が還元反応であることをより明確にするために,水素雰囲気下での実験に続き,還元反応の逆反応である酸素雰囲気下での実験を,優先順位を上げて先に研究を行った(研究実績の概要として別途まとめたものに対応)。なお,上に掲げた4項目の2年目終了時の状況は以下の通りである。まず,(1),(2)に関しては,予備的な実験結果を得た。特にRuをRh(周期表で右隣に位置する)に部分置換(Rh/Ruの比:10, 40%)した系では,水素雰囲気下での抵抗変化率が徐々に大きくなること,RuをRhに完全置換した系では同条件で抵抗変化率が7倍程度大きくなることを見出した。一方,SrをBaに完全置換した系では抵抗変化率はほぼ同じであった。これらのことから,Ruと酸素との混成軌道が電気伝導に支配的な寄与をもたらしていること(バンド理論から予測されるものと矛盾しない),さらにこれまでの知見から,RuよりもRhの方が酸素との結合力が弱く,水素により還元されやすいと考えられることなどの情報を得た。(3) については,3端子法と4端子法を同一試料で同時に測定する方法を検討し,測定系の一部を作製し直した。(4) については今後の継続課題となった。 以上より,研究はやや遅れてはいるが,着実に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度となるため,これまでの研究から新たな課題として浮上したものに取り組み,研究をまとめる予定である。特に,本研究を開始した当初,SrRuO3(以下SRO)との比較対象物質として測定を行った水素吸蔵金属Pdにおいて,水素雰囲気下での抵抗応答に未解明の現象があった。具体的には,水素導入直後からバルク敏感の4端子法では水素吸蔵により抵抗上昇を検知するが,界面敏感の3端子法では,バルクでの抵抗上昇がある程度落ち着いてから後に遅れて抵抗上昇を示すという現象である。これまでの測定は予備的なものにとどまり,系統的に条件を変化させての測定は行えていなかった。また,これまでは4端子法と3端子法を同時に同試料で測定することができていなかったため,特異な現象そのものも確認しておく必要があった。そこで今年度は,測定条件を揃えた上でバルクと界面を同時に測定できるよう,測定系をまず改良する。そして様々な温度下で,バルクと界面での抵抗の時間変化を追うことで,Pdの水素吸蔵における特異な現象の解明に取り組んでいく予定である。水素が金属内部に吸蔵される際は,水素分子が界面で原子状に解離し,バルク内部へ侵入していくと考えられているが,バルク敏感と界面敏感の電気伝導をプローブとすることでどちらかに焦点を絞ったものではなく,シームレスにつなげて現象を新たな視点で見直す。これは当初の研究テーマ物質SROに適用した手法の応用であり,水素に対する物質内部・界面の応答を調べる手法の有効性を検証することにもつながる。Pdの他には,同じく水素吸蔵金属のNb,Ta,Vなどの他元素との比較,また,界面においては水素雰囲気下から酸素雰囲気下に切り替えた場合の抵抗の時間変化などを,4端子法と3端子法の組合せによる長時間の安定した測定で,水素吸着・吸蔵のダイナミクスにアプローチする。
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた理由) ・当初計画で見込んだよりも安価に研究が進んだため,次年度使用額が生じた。 (使用計画) ・次年度使用額は令和3年度請求額と合わせて物品費や成果発表費(論文投稿費等)として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)