2019 Fiscal Year Research-status Report
Study of high-pressure quantum phase of orthogonal dimer spin system by low-temperature 4 GPa class high-pressure ESR measurement
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19K03746
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
櫻井 敬博 神戸大学, 研究基盤センター, 助教 (60379477)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高圧下ESR / 直交ダイマー / プラケット一重項 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、二次元直交ダイマー系SrCu2(BO3)2において、近年圧力下で見出されたプラケット一重項の詳細を明らかにすることである。プラケット一重項とは四角形の頂点にある4つのスピンで形成される一重項状態であるが、本系においては、四角形の対角の相互作用を含んだ4つのスピンで形成されるタイプ(full型)と対角の相互作用を含まない4つのスピンで形成されるタイプ(void型)の二つの可能性が有り議論が続いている。そこで本研究では、0.5 K、4 GPaを同時に達成する多重極限下ESR装置を開発し、本系のプラケット相の詳細を明らかにする。 本研究を遂行するためには、現行の高圧下ESRシステムにおける最高圧力2.5 GPa、最低温度1.7 Kの極限環境を増強する必要がある。そこで今年度はまず圧力セルの開発に注力した。現在圧力セルはピストンシリンダー型で内径5φのものを使用しているが、この内径を4φにすることで圧力を少なくとも3 GPa弱まで発生可能であることを確認した。この発生圧力確認のために、試料と同環境下にあるスズの超伝導転移温度を交流磁化率測定により検出できる装置を開発した。具体的には圧力セルの外部に交流磁場を与える変調コイルと磁化を検出する検出コイルを設置し、超伝導転移温度、延いては圧力を決定できる様にした。この際、印加電流、周波数、降温速度などの諸条件を詳細に検討し、条件を最適化した。同装置ではESR測定も可能である。これを用いESRのシフト量により圧力が較正できる物質を探索し、ルビー(Al2O3、Cr3+)がこの目的に合致していることを確認した。これにより、試料のESR測定と同時に、ESR測定のみから圧力が較正できる手法を確立しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は圧力セル、及び圧力較正技術の開発を主に行った。現行の圧力セルはシリンダー内径が5φで、最大発生圧力が2.5 GPaである。これをシリンダー内径を小さくすることにより発生圧力を高めた。具体的には内径を4φにした。これにより最大発生圧力を3 GPa弱にまで高めることに成功した。この発生圧力の測定は新しく開発した装置により行った。これは、試料と同時に封入した圧力マノメータとしてのスズの超伝導転移温度を測定できるように、圧力セル外側に交流磁化率用の変調コイルと検出コイルを設置したものである。超伝導転移温度の検出については、変調コイルへの電流値、周波数、また温度の変化率について詳細に条件を検討した。これは温度計を圧力セル内部にセットできないためで、温度の変化率については、0.05 K/min.程度であれば温度計の測定する温度とセル内部の温度が等しく、また再現性良く転移温度が検出できることが分かった。また電流値、周波数についてはいずれも値が大きいほど基本的には信号は大きくなるが、どちらもの場合も圧力セル上に発生する渦電流由来の発熱が大きくなり、試料空間の温度より温度計が検出する温度の方が高くなる傾向が見られた。従って、変調コイルの電流値、周波数は、超伝導転移を検出出来る範囲で可能な限り小さい方が良いと言うことが分かった。この装置では同時に試料のESR測定ができる。これを利用し、ESR測定により圧力が較正できる物質の探索を始めた。その結果、ruby(Al2O3、Cr3+)が利用できることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はまずESR測定により圧力を較正する手法を確立する。これまでに、ESRによる圧力較正物質としてルビー(Al2O3、Cr3+)が利用できそうであることを確かめている。ルビーは磁性イオンであるCr3+(S = 3/2)がD項を有するため3つに分裂した信号を示すが、圧力の印加によりこの分裂幅が変化する。来年度は、この分裂幅の詳細な圧力依存性、再現性、可逆性を調べ、較正手法を確立すると共に、圧力の見積もり精度の評価等も行う。これにより試料のESR測定と同時に、ESR測定のみから圧力が較正可能になる。また現状で最大発生圧力は3 GPa程度であるが、圧力セルの内外径比等を最適化し、更なる発生圧力の向上を試みる。また0.5 Kでの測定もテストを行う。SrCu2(BO3)2の高圧量子相は3 GPa程度に予想されているため、ある程度、圧力発生等が安定してきたら実際に測定を始める。
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Causes of Carryover |
予定していた装置開発が順調に進んだため、物品費が若干少なくて済んだ。このため、計画分と差異が生じた。 次年度は圧力セルの消耗品費用がかさむことが予想されるため、繰越金を次年度の消耗品費用として計上し、使用していく。
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