2021 Fiscal Year Research-status Report
Study of high-pressure quantum phase of orthogonal dimer spin system by low-temperature 4 GPa class high-pressure ESR measurement
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19K03746
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
櫻井 敬博 神戸大学, 研究基盤センター, 助教 (60379477)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 直交ダイマー / プラケット相 / 高圧下ESR / 熱検出型ESR |
Outline of Annual Research Achievements |
直交ダイマー系物質SrCu2(BO3)2は近年、圧力下で新奇な量子状態を実現している可能性が示唆され大変注目されている。Pc1 = 1.75 GPaでの、2つのスピンで一重項となるダイマー相から、4つのスピンで一重項となるプラケット相への相転移は、申請者の行った高圧下ESR含め、いくつかの実験により確定的である。しかしプラケット相の詳細や、より高圧領域で理論的に存在が予想されている新奇な転移については、ほとんど明らかになっていない。本研究ではそれらを高圧下ESRにより明らかにすることを目的とする。 申請者がこれまでに開発した高圧下ESR用圧力セルの最大発生圧力は2.5 GPaであり、上記を調べるには不足である。そこでまず更なる高圧力が発生可能な圧力セルの開発に取り組んだ。基本的には、試料空間断面積を小さくすることで発生圧力を高める。現状では2.8 GPa程度までの圧力発生には成功した。しかしこれ以上の圧力ではシリンダーに変形が見られたため、シリンダーの肉厚を厚くすることで更なる高圧発生を目指す。いくつかの圧力セルを試作し評価を進めている。 一方上記の新奇高圧相は、直交ダイマーが並ぶ二次元平面内の磁気的な対称性を調べることで明らかになる可能性がある。そこで、昨年度開発に成功した高圧下熱検出型ESRを更に発展させた。同手法はプローブがコンパクトになるため、その利点を活かし横磁場印加可能なスプリットペア型超伝導磁石と組み合わせることで圧力下においてESRの磁場角度依存性測定を可能にした。そしていくつかの試料に対して圧力下で角度依存性測定に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既存ESR用圧力セルは、圧力セル小(外径23.5 mm、内径5 mm、最大圧力2.0 GPa)と、圧力セル大(外径23.5 mm、内径5 mm、最大圧力2.5 GPa)である。現在までに、圧力セル小に関し、シリンダー外径はそのままに内径を4 mmとして発生圧力の向上を試みている。その結果、従来の2.0 GPaから2.8 GPaの発生圧力の向上に成功した。しかしこのシリンダーでは2.8 GPa以上で変形が見られた。そこで変形を抑えるためにシリンダーの肉厚を厚くし、内径3 mmのものを作製した。今後、発生圧力の評価を行う予定である。内径、即ち試料空間を小さくすることは信号雑音比に影響を及ぼすので、ある程度の内径を確保しつつ発生圧力を高めるという目的で、圧力セル大のシリンダーの内径を4 mmとしたものを作製した。同セルでは2 GPa以上の圧力を繰り返し安定して発生できることまでは確認した。今後最大発生圧力の確認を行う。またこの圧力セルを用いて、CuVOF4(H2O)6・6H2OというCu2+イオンとV4+イオンの異種イオンからなる反強磁性ダイマー系において、非磁性一重項から励起三重項への直接遷移をESRにより観測し、その圧力依存性を観測することに成功した。本系では、圧力に伴うギャップエネルギーの増加と2 GPa以上でのこの直接遷移に起因するESR信号の消失が観測された。 一方圧力セル小では熱検出型ESR測定手法を更に発展させた。同手法では透過電磁波を観測するための電磁波の折り返し機構が必要でなくなるため、プローブが非常にコンパクトになりボアの小さな磁石との組み合わせが可能である。これを利用し横磁場が印加可能なスプリットペア型超伝導磁石と組み合わせ、圧力下における磁場角度依存性測定に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、SrCu2(BO3)2のプラケット相におけるプラケットの組み方に関しては、ダイマー相でダイマーを形成していた2つのスピンがプラケット内に含まれているのか(Full型)、あるいは含まれていないのか(Empty型)が議論されている。一方直交ダイマーが並ぶ2次元平面は、Full型では2回の回転対称性を有し、一方Empty型は4回のそれになる。従ってプラケット相内でのこれら2つのプラケットの型は、面内の対称性を調べることで判別できる可能性がある。そこで本研究では高圧下ESRの角度依存性によりその判別を試みる。既に開発済みの熱検出型ESRは、コンパクトさという利点があるためそれを活かし、横磁場印加可能なスプリットペア型超伝導磁石と組み合わせた。これにより高圧下においてESRの磁場角度依存性測定が可能になった。この手法を用いれば、プラケット相における面内の対称性が明らかになり同相のより詳細な情報が得られる。一方で、この超伝導磁石と組み合わせ可能な圧力セル小は、ボアの制限から外径(23.5 mm)をこれ以上大きくすることは出来ない。現状内径4 mmで最大発生圧力が2.8 GPaであるため、今後は内径を3 mmとし、更なる高圧の発生を目指す。そして高圧下での磁場角度依存ESR測定により本系の高圧下量子相を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本研究では当初、圧力セル大に対して、試料空間断面積を5 mmから4 mmにすることで最大発生圧力2.5 GPaの5/4の2乗倍として3.9 GPaの圧力発生を見込んでいた。しかし本系のプラケット相の詳細な研究には、熱検出型ESR測定の角度回転依存性測定がより適している可能性が有り、圧力セル小をベースとした改良も同時に進めた。このような方針変更のため、圧力セルの仕様を確定させるための圧力セル関連の消耗品の評価等に時間を要し、これら消耗品の大量発注に至っていない。これが次年度使用額が生じた理由の一つである。仕様はほぼ確定したので次年度はこれらの購入に充てる。 また新型コロナウィルスの流行に伴う種々の制限により、予定していた学会等へ参加できなかった。これも次年度使用額が生じた理由の一つである。次年度には国際会議に参加する予定である。
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