2020 Fiscal Year Research-status Report
核磁気共鳴法による励起子絶縁相の検証:コバルト酸化物を舞台として
Project/Area Number |
19K03750
|
Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
加藤 治一 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (60363272)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 励起子凝縮 / 核磁気共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
Pr0.5Ca0.5CoOx(以下PCCO)は酸素量が定比(3.0)に近いときは金属絶縁体転移をなすことが知られている。これは励起子凝縮が起こっているためとの解釈が近年提出されている。それを踏まえ、本研究ではPCCOおよび関連物質について、特に酸素量に留意した物質合成および核磁気共鳴(NMR)測定を行っている。本年度はまず、(1)これまでに作成した試料について含有酸素量の定量方法を確立しようとした。ヨードメトリー法を本線に考えているが、試料が酸には難溶であるため、通常知られているような手法はそのままでは適用できない。ただし、試料は希酸とともに高耐圧の密閉容器に閉じ込め、水熱反応を利用することで溶かすことができる。水熱反応を経てヨードメトリーを行うことの妥当性を検討するために、酸素量が既知のコバルト酸化物について正しく酸素量を定量的に評価できるかどうか試みた。まだ改善の余地はあるものの、概ね妥当な結果が得られるような具体的な実験手順が大筋で固まった。また昨年度より、(2)PCCOと類似の結晶構造を持ち形式価数が同じであるが強磁性を示すコバルト酸化物Pr0.5Sr0.5CoOx(以下PSCO)を固相反応法により合成し、酸素量評価も行っている。PCCO,PSCOとの関連を探るために類縁コバルト酸化物Sr1-xYxCoOx(SYCO)を固相反応で合成し、室温での強磁性を確認した。以上と並行して(3)PCCO,PSCOともに、含有酸素量の異なるいくつかの試料についてNMRスペクトルを測定し、比較検討した。細かな差異はあるものの、試料の含有酸素量に関わらず、PCCOは~120MHz,PSCOは~110MHzを中心として信号が観測される。金属絶縁体に近い試料でも同程度の強度で信号は観測されるため、これらの信号は単純な強磁性に起因するものではないかもしれない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、コロナ禍のため、4~5月の幅広い期間に渡って所属先より在宅での用務が要請され、大学での実験に著しい制限がかかった。また通年は学生に研究協力を頂いているが、健康上の配慮が必要なこともあり、半期(4~8月)期間中は本研究に関する実験時間が取れなかった。一方で、一部のNMR測定を行うには寒剤(液体窒素)が必要であるものの、7月には折悪しく共用の液体窒素製造装置が故障し、結局半年以上に渡った修理期間中は当該測定が行えなかった。このような事情により、当初の実験計画に大幅な遅れがでた。 本年度予定していた固相反応法以外の方法での試料合成は本年度は行わなかった。代わりに、液体窒素製造装置の故障期間中は寒剤を使わなくてもできる実験を優先したり、関連化合物の合成や、従来よりもより精密な酸素量の定量方法を探ったりして遅れを取り戻そうとしている。PCCO、PSCOのNMR共鳴信号に関しては、その測定範囲は一部に留まっているものの、含有酸素量に関する大まかな傾向は見えてきている。特に、試料の含有酸素量に関わらず一定の範囲に類似の信号が観測されることは、これらの信号が励起子(あるいは励起子の前駆現象)と関連している可能性があり、興味深い。
|
Strategy for Future Research Activity |
PCCO,PSCOについてはまずは酸素量が定比の試料を得たい。そのために、湿式合成法や高圧アニールなどの手法を試す予定である。含有酸素量の異なるいくつかの試料について一定の範囲でNMR信号は観測できているので、測定周波数を拡張してこまめに全貌を探索していきたい。計画の最終年度となるので、はっきりとしたスペクトル線の帰属を行い、励起子凝縮相との比較を念頭に置きながら系におけるコバルトのd電子状態を明らかにしたい。並行して、現在得られている信号について動的特性を明らかにして、間接的な形ではあるが相の変化を追随していく予定である。また、PSCOと同様に強磁性を示す類縁コバルト酸化物SYCOに関してもNMR測定を行い、励起子凝縮相との異同を明らかにする予定である。PCCO/PSCOの中間化合物について、相がどのように変化していくかもミクロ・マクロの両観点から明らかにしたい。
|
Causes of Carryover |
助成金は研究目的に応じて概ね計画的に使用した。少額が残ったが、不要不急なものを購入するなどして無理に使い切るより、次年度予算に合算して使用するのが有意義に効率的に使用できると考える。 (使用計画)額は少額であるので、当初予定より大きな変更なし。繰越予算は新年度の予算と合算して消耗品(薬品等)の購入にあてる。
|
Research Products
(1 results)