2019 Fiscal Year Research-status Report
Study for emergent spin-orbit phenomena based on atomic-scale multipole ordering
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19K03752
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
楠瀬 博明 明治大学, 理工学部, 専任教授 (00292201)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
速水 賢 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (20776546)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 多極子 / 拡張多極子 / 奇パリティ多極子 / 創発スピン軌道相互作用 / トロイダル秩序 / 電流磁気応答 / 交差相関応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
固体結晶中の多様な秩序を電子多極子の自由度を用いて整理することにより、交差相関物性の理解が大きく進展してきた。 通常、交差相関にはスピン軌道相互作用が不可欠の要素と広く認識されている。 本研究では、従来の常識とは異なり、スピン軌道相互作用が弱い極限において、有効的なスピン軌道相互作用が磁気秩序によって創出されるという可能性を追求している。 電子多極子の知見を用いると、このような創発スピン軌道物性がどのような条件下で生じ得るか、見通しよく議論することができる。これらの条件を明確にすることで、スピン軌道相互作用が弱い3d電子系などの物質群における新しいスピン軌道物性を開拓することが目的である。 この目的に対して、多極子を考えるユニットとなる副格子を対称性に基づき分類し、共線的磁気秩序と非共線磁気秩序の場合にに分けて、創発スピン軌道物性の発現機構を明らかにした。共線的磁気秩序の場合は、電気多極子がスピン秩序と結合することで、有効的なスピン軌道相互作用が生じるが、これらは波数空間において対称的なスピン分裂をもたらす。従って、生じ得る交差相関物性は多くの場合、縦応答となり、異常ホール効果やスピンホール効果などの横応答とは質的に異なる現象となる。非共線的磁気秩序の場合は、副格子内の多極子は磁気秩序と高次の結合となる。特に、変調したカゴメ格子の120°磁気構造のような空間反転対称性を破る磁気秩序の場合、反対称なスピン軌道相互作用が有効的に生み出され、結晶構造に元々組み込まれた反対称スピン軌道相互作用と同じ物性が生じる。非相反の輸送現象やスピンホール効果などの横応答が期待される。このような知見に基づき、多くの交差相関応答を一般的に議論したほか、このような理論の応用例として、スピン軌道相互作用がほとんど無視できる有機反強磁性体に対して、電場印可や熱勾配によるスピン流生成の新しい機構を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は、映進対称性や螺旋対称性を含む空間群(いわゆるノンシンモルフィック群)における創発スピン軌道物性を詳細に検討する予定であったが、研究の過程で、ノンシンモルフィック群に限らず、より広い系を対象として創発スピン物性の候補があることに気付いたため、当初の対象を超えた範囲で一般論を展開することができた。これにより、磁気データベースによる候補物質の探索範囲が広がり、候補物質の種類が大幅に広がった。 このように、当初の計画以上の進展が見られる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、磁気秩序による創発的なスピン軌道相互作用の発現機構については基礎的な理解が得られた。この知見を基に、物質探索用データベースで得られた対象物質について、詳細な電子状態を取り入れた定量的計算にも取り組む。また、電気的秩序による類似の創発現象の探索を探索する。電気的な秩序の場合、対称性の破れ方は部分並進(軌道運動)と電気的自由度の両者に依存し、有効的な電荷軌道相互作用が生じると考えられる。このような結合は特に弾性異常などの物性に影響を与えると思われる。磁気秩序と同様に電気的な秩序についても一般論を展開し、新たな交差相関物性を探索するとともに、候補物質の選定と詳細な電子状態計算による定量的な物性予測を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延により予定していた出張が中止となったため。次年度以降に出張旅費として使用する予定。
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Research Products
(16 results)