2022 Fiscal Year Research-status Report
Dielectric alpha process in glass transition revisited
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19K03759
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
野嵜 龍介 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00180729)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ガラス転移 / 過冷却液体 / α緩和過程 / 広帯域誘電分光 / 複雑液体物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに、α緩和過程の観測がいくつかの異なる物質で安定して行えるようになったので、今年度はよりガラス転移温度に近い温度領域における超低周波領域の緩和時間の再現性について詳しく検討した。 (1)ソルビトール 炭素数Nc=6のソルビトールは(ガラス転移温度~265K)、研究代表者をはじめ世界的に多くの研究者により過冷却・ガラス転移の研究において標準物質の一つとして用いられ、その分子ダイナミクスは様々な角度から研究されている。しかし、本研究のような超低周波数領域におけるα緩和の振る舞いについて注目して研究は大変数少ない。その原因は、ガラス転移現象がかかえる強い緩和効果(熱履歴)である。理想的にはできるだけゆっくりと冷却して実験を行うことが望ましいが、PVAcのようなアモルファス高分子と異なり、遅い冷却は結晶化を招いてしまう恐れがある。今年度は、異なる冷却速度で測定温度まで冷却した場合のα緩和周波数の違いについて詳細に検討した。その結果、270K以上の温度領域ではα緩和周波数は冷却速度に依存しないことが分かった。一方、それ以下の温度領域では、冷却測だが遅いほど、測定されるα緩和周波数は低くなることが確認された。この傾向は、熱履歴に関してはほぼ理想的であったと思われるPVAcによる実験結果と定性的に一致し、ガラス形成物質に普遍的な現象であると強く推測される。 (2)キシリトール、グリセロール Nc=5のキシリトールとNc=3のグリセロールのガラス転移温度が低く、測定温度範囲ではα緩和周波数の熱履歴依存性は認められなかった。また、キシリトールは遅い冷却の際の結晶化の発生頻度が大きいことも分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ソルビトール、キシリトール、グリセロールによる誘電α緩和過程の熱履歴依存性を検討するための実験は、おおむね目的を達成していると考えている。それぞれの低温側実験到達温度は同じであるが、ガラス転移温度が大きく異なるため、ガラス転移温度領域における詳細な熱履歴依存性が解明されつつあるのはソルビトールのみであるが、予定されていた実験温度範囲より低温側の実験が行えたので、より詳細な議論が可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に内容的な大きな変更は予定していない。 熱履歴を考慮した実験の遂行が安定してきたので、今後はソルビトールに重点を置いて研究期間内にα緩和周波数の温度依存性の詳細を調べ、ガラス転移温度領域の分子運動の特異性の有無を考察する。結晶化しやすいことが判明したキシリトールに関しては、研究機関に余裕がある場合のみ追加実験を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で研究科遅れている上、予定していた国際会議等が中止またはオンライン開催になり、使用額が多くなかった。今後は、予定していた研究遂行及び国内外の学会発表等で議論を煮詰める。
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