2020 Fiscal Year Research-status Report
How the physical properties of cholesterol progressed from those of its ancestor molecules?
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19K03762
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
高橋 浩 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80236314)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コレステロール / ラノステロール / 分子進化 / 生体膜 / 薬剤代謝 / ホスファチジルコリン / 分子パッキング |
Outline of Annual Research Achievements |
薬剤代謝酵素シトクロムP450(CYP)が、薬剤を代謝する過程は、生体膜の脂質膜領域から薬剤を取り込むことから始まる。脂質膜の疎水部に入り口のあるチャンネル(空隙)を通って薬剤はCYPの活性部位に到達する。このように、まず、薬剤が脂質膜に取り込まれる必要がある。この過程に脂質膜の物理的な状態、つまり、膜物性がどう影響するかを明らかにしたい。CYPが存在するのは主に小胞体膜で、その膜は他の細胞内小器官の膜と比較するとコレステロール濃度が低い。この事実から、低コレステロール濃度の結果もたらされる膜物性が、薬剤を膜に取り込むことに有利に働くとの仮説を提案し、モデル系の実験では、この仮説を支持する結果が得られた。仮説が正しいとして、コレステロール生合成過程の前駆体で、原生生物で見出される、進化的にも祖先分子と考えられているラノステロールが、そのような膜物性を誘起する作用があるかを探ることが本研究の目的である。 令和2年度は、薬剤との相互作用の問題は追及せずに、脂質膜の物性に対しての、コレステロール効果とラノステロール効果がどのように違うかを追及した。具体的には、X線回折による構造学的な解析、環境敏感型の蛍光プローブであるProdanとLaurdanを用いての膜の流動性の評価、および、密度測定のデータより、膜中ステロールの分子体積の算出を行った。X線回折から見積もられた膜厚のデータと見掛けの分子体積を合わせて現在解析を進めている。調べた人工膜系では、コレステロールとラノステロールで膜物性への効果に差があることは明らかとなったが、他の研究者の先行研究の結果とも合わせて、それを定量的にどう表現するかを模索中である。 研究成果発表は、誌上開催となった日本膜学会第42年会とオンライン開催となった日本物理学会 2020年秋季大会 (9月)と日本生物物理学会第58回年会(9月)で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度、極性頭部に負電荷を持つ酸性リン脂質と中性リン脂質(ホスファチジルコリン)の2成分系モデル膜の構造に対するコレステロールとラノステロールの影響を、X線散乱を用いて比較検討したところ、液晶相では、ラノステロールと比較すると広い濃度範囲でコレステロールの方がより膜厚を増大させる結果を得た。令和2年度は、中性リン脂質単成分系で同様なX線回折実験を行い、傾向としては同じ結果、すなわち、コレステロールの方がラノステロールより脂質膜の膜厚を増大させることが確認できた。この結果は、他の研究者により中性子散乱法による報告が既になされているが、その実験よりも高い精度のデータを得ることができた。しかし、不飽和脂肪酸鎖を持つ中性リン脂質膜の密度測定から得られた分子体積の変化からは、コレステロール、ラノステロールともに顕著な分子体積減少効果、すなわち、強い凝集効果は認められなかった。 現在、X線回折から見積もった膜厚と分子体積の関係から、膜の側方方向への凝集効果を見積もることを行っている。さらに、この結果と蛍光プローブ測定から得られた流動性のデータと合わせて、不飽和脂肪酸鎖を持つ中性リン脂質に対するコレステロールとラノステロール効果の差を考察している状況である。 令和2年度においては、本課題と関連する擬環状のエーテル型リン脂質の膜物性と構造に関する論文を共著で執筆し、BBA-Biomembrane誌に投稿し受理され、その論文は2021年2月よりオンラインで公開された。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和3年度は、コレステロール、ラノステロールを含むモデルリン脂質膜系(リン脂質としは中性のホスファチジルコリン1種の系と酸性リン脂質と中性リン脂質の混合系)に、対して薬剤を添加し、膜内にどの程度取り込まれるかを探る実験を行う。マクロ的な手法とミクロ的な手法の2種類の方法を取る。マクロ的手法では、ステロールを含むリポソームを用意し、それをCYPの基質薬剤を含む水溶液に混ぜ合わせる。その後、透析の手法、ないしは、遠心分離の手法でリポソームと外液を分け、外液中の薬剤濃度を分光学的手法で決定する。まず、実施・解析が簡単な、このマクロ的実験を先に行う。この方法により、リポソームに取り込まれる最大薬剤濃度を決定し、それがコレステロールとラノステロールで差が出るかを探る。しかし、このマクロ的手法では、薬剤は膜表面に結合した状態でリポソームに取り込まれたのか、膜の疎水鎖部分まで薬剤が侵入しリポソームに取り込まれたかの区別はつかない。そこで、マクロ的手法で決定した最大量取り込み薬剤の条件で、コレステロール系、および、ラノステロール系リポソームを作製し、X線回折実験を行い、膜面に垂直方向の電子密度分布を再構成し、薬剤を添加していないリポソームの電子密度分布と比較して、リン脂質膜内での薬剤の存在位置の決定を行う。 我々のこれまでの研究では、30mol%程度の高濃度コレステロールは、CYP基質薬剤のリン脂質膜へ侵入量を減らす効果があることが分かっている。その機能がラノステロールでも発揮されるかどうかを上記の解析ではっきりとさせる。我々の仮説としては、そのような能力は祖先分子のラノステロールにはなく、分子進化的に後継であるコレステロール分子が新たに獲得した機能であるとしている。この仮説を実験的に検証して行く予定である。
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Research Products
(6 results)