2019 Fiscal Year Research-status Report
Bio-inspired quasi-periodic materials: their functionalization and physical property control
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19K03766
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
島 弘幸 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40312392)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | タケ / イネ / ナノカーボン / 中空パイプ / 座屈 / バンドギャップ |
Outline of Annual Research Achievements |
天然の生物をよく観察すると、その構成要素には、しばしば空間的な周期パターンが認められる。こうした天然物の周期パターンは、人工的な周期構造物で発現する各種の物理機能を連想させる。そこで本年度の研究では、空間周期パターンを帯びた生物とその構成要素、ならびに生物形態と類似した人工構造物を対象として、物性科学の視点からその機能探索と高度化を試みた。 同軸状に周期積層された管状構造は、生体内でみられる擬周期構造のひとつである。たとえば細胞や血管、脂質管における自己集合微小管などが、その例として含まれる。一方ナノ材料開発の分野では、炭素やホウ素を含む多様な材料ベースで、上とよく似た同軸周期型のチューブ構造が広く合成されている。そこで本年度の研究では、ナノからメゾ・マクロに至るトランススケールで実現する多層管状構造に特有な力学特性の理論解析の一端として、同じく多層管状構造を有するナノカーボン系における力学-電子物性相関への理論適用を行った。これにより、多層管状系に特有なナノ構造電子物性の発現を理論的に予測することができた。 これと並行して本研究では、日本国内に広く自生するタケの形態と力学に関する研究を行った。タケは稈に沿って節を形成する植物で在り、この節は稈に対して周期的な補剛部材の役割を果たしている。従ってタケは、自然由来の擬周期構造の代表例といえる。本年度の研究では、複数種のタケの形状を国内各地の調査地点で測定し、その形状と補剛部材の配置に関する共通則の帰納的導出を試みた。その結果、木質部の体積を非破壊的に予測するためのアプローチを独自に提案することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、生体の構成要素によくみられる擬周期型の中空パイプ構造を対象とし、この系に特有な力学特性を理論的に演繹した。同軸状に周期積層された管状構造は、生体内でみられる擬周期構造のひとつであり、その生物学的な機能は多層性に起因するところが大きい。またナノテクノロジーの分野では、様々な素材をベースとした多層ナノチューブが合成されていまる。さらに、同軸状の多層パイプ構造は、工学分野におけるマクロスケール複合材料の設計に有用である。よってその力学特性の解析は、異なるスケールを跨ぐ生物模倣科学の進展に資することが期待できる。 そこで本年度の研究では、特にナノスケールで発現する多層管状構造に注目し、この系に特有な力学特性を理論的に解析した。具体的には、単層カーボンナノチューブの軸圧縮によって引き起こされる電子バンドギャップの変化を、分子動力学シミュレーションを用いて精査した。その結果、圧縮ひずみがある臨界値を超えると、系のアスペクト比に応じて3つの異なる座屈モードが発生することがわかった。さらにこれらのうち、2つの異なるシェル座屈モードが、座屈しきい値付近の軸圧縮に対する応答として、対照的なバンドギャップ変調動作を示すことがわかった。 さらに本年度の研究では、複数種のタケの形状を国内各地の調査地点で測定し、その形状と補剛部材の配置に関する共通則の帰納的導出を試みた。特に竹稈の木質部の体積に関する実測データをもとに、その種間変動と種内差を定量的に解析した。こうした測定作業は、竹林のバイオマス資源を定量化するため、および竹林の炭素蓄積を評価するために役立つものである。その結果、木質部の体積を非破壊的に予測するためのアプローチを独自に提案することができた。この結果は、竹林の炭素隔離能力ならびに竹稈の商業価値の両者を評価する手法の開発に資するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、タケの形態データの収集をさらに進め、節と内部繊維に由来するタケ特有の力学特性の全容解明を目指す。その成果は、タケの擬周期構造を模倣した、軽量・高強度・省材料性を兼ね備えた高層建築物の最適デザイン手法に資すると期待できる。 さらにタケと類似の擬周期構造例として、イネの力学の解析にも取り掛かる。イネはタケと同様に中空の稈をもち、複数の節間が連結した構造を示す。近年の品種改良技術の進展により、各節間の太さ・長さ・硬さを、遺伝子レベルで操作することが一定程度可能となってきた。よって各節間の形態を人工的に制御することで、横風や強雨に晒されても倒伏しない、強いイネを創り出すことが望まれている。この動機を受けて今後の研究では、イネの形態を模した中空擬周期パイプ構造を想定し、各部位の断面二次能率や弾性係数をどのように分布させるとイネの稈全体の湾曲を抑制できるのかを考察する。得られた推算結果をもとに、実物のイネを用いた検証実験を行うことで、倒伏耐性の強いイネの実現に向けた学際研究を推進する。
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Causes of Carryover |
全国各地の竹林を数多く巡回して、複数種のタケサンプルに関する多数の形態データを取得することを当初予定しており、その事前準備と測定実施のための旅費と人件費を予算計上していたが、その後研究協力者との議論を通して測定データを外部から提供して頂くことが可能となったため、この分の旅費を次年度に行う測定作業のための旅費として繰り越すこととした。さらに物性推算シミュレーションに必要な数値計算ソフトの新規購入を当初予定していたが、その後の理論考察により既存の計算コードを改良修正することで大幅な性能強化が可能であることが新たに判明したため、この分の物品費を次年度に繰り越すこととした。
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