2021 Fiscal Year Research-status Report
Bio-inspired quasi-periodic materials: their functionalization and physical property control
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19K03766
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
島 弘幸 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40312392)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 植物力学 / パターン形成 / タケ / フキ / ひび割れ / 柱状節理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、野外調査で得た各種のタケの採寸データを用いて、タケの形態を特徴づける形数(form factor)に係る法則の導出を試みた。形数とは、各種の樹木の形態の違いを数値化するための幾何学的な概念であり、樹幹の表面積(または体積)を、ある参照円筒体の表面積(体積)で除した値で定義される。本研究では、3種類にわたるタケ (モウソウチク・マダケ・ハチク)の供試体:570本あまりを国内各地の竹林から伐採し、それらの採寸データを詳細に解析して、タケの形態を特徴づける新しい指数TIFF(Taper Index based on Form-Factor)を定義した。各種のタケのTIFF値を比較した結果、その値が種ごとに有意に異なり、かつ種内変動がかなり小さいことがわかった。この結果は、少数の供試体データをもとに、種固有の形態をTIFFによって評価できることを意味する。 さらに本年度の研究では、火山岩の冷却収縮に伴って生じる亀裂パターンについて、環境条件を超えた法則性の有無を調べた。溶岩流の固化により発生した柱状節理の露頭には、秩序だった多角形状の亀裂パターンがしばしば発達する。この多角形の直径は露頭ごとにかなり均一であるが、多角形を構成する辺の数と内角の値は大きなばらつきを示す。そこで本研究では、過去にドローン空撮で得た柱状節理露頭の空撮画像を詳細に解析し、多角形の統計的変動が極値分布クラスのひとつであるガンベル分布に従うことを明らかにした。この結果は、樹木で観察される樹皮のひび割れパターンや、マスクメロンの表皮で発達する網目状の亀裂パターンと対比して議論することで、植物に広くみられる脆性破断現象を統一的に解釈できる可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染の拡大を受けて、野外調査による植物の一次データ取得が極めて困難となり、研究計画の大部分を延期せざるを得なかった。その対策の一環として、過去に取得した採寸データをもとに、植物の形態を特徴づける新しい指標の提案を模索し、一定の成果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
樹木の形態に関する研究では、中空茎を有する植物の力学的合理性を考察する予定である。特に、次のような特徴を有するフキに注目して研究を進める:i)地上高の最も高い先端に大きな葉が広がっている、ii)茎の断面が馬蹄形である、iii)茎の表面には長手方向に沿ったリブが付着している。特にi)で述べた大きな葉は、個体の先端に大きな集中荷重を与えており、ii)とiii)の形態に由来する力学機能によってその荷重を支えていると予想される。この予想を検証するために、野外で自生するフキの採寸と力学試験を実施する。測定にあたっては、フキ個体を①表皮、②維管束 ③細胞質 の3種類に分離し、各材料の応力歪み曲線を導出することで、フキの断面剛性の評価を行う。 亀裂パターンに関する研究では、ネットメロンに代表される果実表皮の幾何パターン解析を行う。果実の表皮は厚いクチクラで一様に覆われていることが多いが、一部の種類の果実では表皮に特異な構造が見られる。その代表例が、ネットメロン表皮の網目構造である。このメロンの網目は、個体の生長段階で生じる表皮のひび割れに起因する。果実部(内部)の肥大速度が表皮の伸長速度を追い越すと、表皮の一部が破断し、その亀裂間隙に内部からスベリンという油脂状の蝋性物質(水分蒸発を防ぐ作用がある)が分泌される。このスベリンが表皮の亀裂を埋め、コルク質を形成することで、メロン表皮全体を覆う網目模様が生成される。しかしその機序解明は十分ではなく、局所的な化学反応過程と大域的な模様形成の両者において、未だ議論の余地が残されている。そこで今後の研究では、ネットメロン果皮の画像解析および果皮供試体の力学試験から、果皮全体を覆う大域的パターンの形成過程を推察するとともに、閉じた球面上で実現される亀裂パターンの特性 (平面上パターンとの相違点)を理論と実験の両面から精査する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染の拡大に伴い、予定していた国際会議での成果発表を中止せざるを得なかった。また北海道の固有種であるラワンブキや、国内外で自生するタケなどの形態測定と力学試験についても、県外への出張自粛措置のために実施することが出来なかった。そこで次年度に、ほぼ同じ用途で当初予定の予算を使用する予定である。さらに、上述の測定データを解析するための数値解析用機器の購入も見送ったため、物品費やその他の経費に余剰がでた。これらの余剰経費についても、次年度以降に当初予定と同じ用途で使用する予定である。
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