2019 Fiscal Year Research-status Report
エネルギー地形および非平衡相転移描像を用いた,固体の力学応答に関する統一的理解
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19K03767
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川崎 猛史 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10760978)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ガラス / 破壊 / アニール |
Outline of Annual Research Achievements |
物質をある初期温度で構造緩和させ,その後冷却するという過程をアニールとよび,その力学物性はアニール温度によって大きく変化することが知られている.十分アニールした場合,初期温度が低いほど,物質はより安定な構造をとる.一方,この安定性に関する議論は,あらわに構造が特定できないガラスにおいても適用可能であることが知られている.ミクロな側面から多大な知見を与える分子動力学法など従来型の数値計算では,大規模なものであっても構造緩和時間を高々ミリ秒オーダーまでしか計算することが難しいため,実験におけるガラス転移温度に比べ遥かに高温領域までしかアニールすることが出来なかった.これに対して本研研究では,大変効率の良い熱平衡サンプリング法を用いることにより,アニール温度を大きく変化させた,安定性が幅広く異なるガラスに対し,非常にゆっくりな(準静的な)周期剪断を与えた際の力学特性を調べた. 本年度の成果は以下の通りである. (1) 剪断強度を大きくしていくと,高温でアニールしたガラスは,高エネルギー状態から徐々にエネルギーが下がり,降伏が起こるところで最小値を示し,降伏後上昇することを確認した.一方,極低温でアニールしたガラスは,低エネルギーを示す安定状態から始まり,降伏までエネルギーはほぼ一定となった.そして、降伏の際,不連続に増大し,その後は高温でアニールしたサンプルと同様な振る舞いを見せることが分かった. (2) 高温でアニールしたサンプルにおける応力歪み曲線は,連続的に振る舞い,一方,極低温でアニールしたサンプルは、降伏で不連続に振る舞うことを確認した.さらに,ここでの不連続な振る舞いは,エネルギーが不連続に増大することと対応していることを明らかにした. (3) 降伏の不連続性の有無は,初期状態のエネルギーが降伏時におけるエネルギーの大小関係から一意に決まることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
サンプルに対するアニールの度合いにより,応力歪み曲線において,脆性破壊的な不連続的振る舞いを見せる場合と,延性破壊的な連続的振る舞いを見せることは近年の先行研究により示されていたが,そのメカニズムは明らかとなっていなかった.本研究では,初期構造のエネルギーと,降伏時におけるエネルギーを比較することにより力学応答が脆性的になるか,あるいは延性的となるかが一意に決まるという極めて明解な結果を得た.本研究結果は,論文として纏められており,最近(2020年6月),Physical Review Lettersから出版されたことからも,十分なインパクトを有すると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,系全体のエネルギー―などマクロな量についての議論を行った.今後は,剪断に伴う構造変化やそれに伴う力学物性の異方性など,よりミクロな観点からこの問題を考察したい.特に,サンプルの構築に関しては,アニールを熱だけでなく,周期剪断の様な機械強化機構(機械的アニールと呼ぶ)に置き換え,これを熱によりアニールされた系と比較することにより,それぞれにおける力学応答の類似点と相違点を明らかにする.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延の影響で、学会や研究会への出張が軒並みキャンセルとなり,今年度,旅費に使用予定であった分の予算が余ってしまった.昨今,オンラインでの研究活動が活発になってきているので,これに向けての環境整備の分に充てる予定である.
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Research Products
(15 results)