2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on rheology of liquids with multiscale structures by means of high-frequency shear impedance spectroscopy
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19K03768
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 毅 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (80345917)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松岡 辰郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (60252269)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 構造緩和 / 高粘性液体 / 粘弾性 / マルチスケール / 横波超音波 |
Outline of Annual Research Achievements |
実験的には、昨年度に作成した無電極水晶振動子の共振測定セルを用いて、装置の性能確認用の標準液体となる試料液体に対して測定を試みた。その過程で低粘性液体の測定においては実験的に決定された粘性係数とゼロ周波数における文献値との間に有意な誤差が存在することが分かり、その原因の検討を行った。その結果、測定セル中の液体積が数十μLと小さいために、粘性が小さく揮発性の高い液体では、毛管現象を通じた液の漏洩によるセル内の液体分布と振動子位置が変化することが分かり、振動子の各共振モードの測定前に毎回試料液体を同一の手順で流し入れることによって、文献値と近い粘性係数が再現性良く測定が可能であることが分かった。エチレングリコール、水、プロピレンカーボネートのように誘電率が高い試料では、ベクトルネットワークアナライザの測定上限である3 GHzまでの測定が可能であった。しかし、1-dodecanolのように誘電率が10以下の試料では、電極と振動子との間の試料を介在した電気的結合が弱いために、信頼できる測定周波数領域は1 GHz以下であった。一方、1-docecanolでは測定周波数域において試料に誘電吸収があるが、誘電吸収の寄与も等価回路モデルで補正できることが示された。 液体の不均一構造が巨視的なダイナミクスに与える影響を解析するための相補的手段として、分子動力学(MD)シミュレーションによる解析と古典動的密度汎関数法(TDDFT法)の開発を行った。MDシミュレーションにおいては、我々のこれまでの研究によって不均一構造が粘弾性緩和と大きく結合していることが示されている液体アルコールについて、誘電緩和と不均一構造のダイナミクスとの結合を解析したところ、その結合はあまり強くないことが示された。また、TDDFT法では、溶質周りの溶媒和構造の微視的ダイナミクスを計算する手法を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では令和2年度は本試料の測定に入っているはずであったが、測定精度が十分に得られないという問題が発生し、本試料の測定を開始できていない。一方で理論・計算的手法による研究では、当初の予定を超えた成果も得られているが、実験計画の遅れを補うには至っていないと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は,高周波粘弾性測定に関しては,研究対象とする試料液体を用いて解析用のデータ取得を試みる.1 GHzを超えた高周波測定のためには試料を介した振動子と電極の電気的結合が強いことが求められるため、測定対象にはイオン伝導性を持つイオン液体を主として研究を進める。まずは金電極を有する従来型の水晶振動子を用いた測定で200 MHzまでの粘弾性緩和が測定されているイミダゾリウム系イオン液体を対象として、200 MHz以下の従来の測定との接続から、電気伝導性を有する試料に対する電気的結合の共振特性への寄与の補正法の確認を行う。次に、従来法では緩和の高周波側が測定できていなかった試料について、本提案手法で測定を行い、緩和の全貌を明らかにする。また、アルキル鎖が短いイオン液体については、従来法では緩和周波数が高すぎるために、粘弾性緩和が測定できていなかったが、本提案手法で測定を行うことによって、これらのイオン液体についても粘弾性緩和を測定することができ、イオン液体の不均一構造を支配する重要な因子であるアルキル鎖長が粘弾性緩和に与える影響について、その全貌を明らかにすることができると期待している。 上記の実験的研究に加えて、巨視的輸送物性と微視的構造ダイナミクスの関係について、MDシミュレーションを用いた解析を行う。令和3年度の研究では、粘弾性と強い関係を持ち物理化学的にも重要な物理量である、液体中に溶けた溶質の拡散運動についての解析を主に考えている。対象は、不均一構造を有する液体である高級アルコールとイオン液体を予定している。これらの溶媒では、小さい無極性溶質について、流体力学理論と比べて非常に大きな拡散係数が報告されており、その原因及び不均一構造との関わりの解明を目的とする。解析手法は我々がこれまでに開発した相互相関解析を中心とし、必要に応じて他の解析手法も開発する。
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Causes of Carryover |
令和2年度は研究成果の発表のため、国際学会を含む複数の学会への参加を予定しており、そのための旅費と参加費を計上していたが、新型コロナ感染症の影響によって、これらの学会が延期、中止またはオンライン化されたことにより旅費が不要になったことが、次年度使用が生じた主な理由である。令和2年度に延期となった国際学会である環太平洋国際化学会議(Pacifichem)は令和3年度には開催予定であり、その渡航費として次年度使用の研究費を用いる。また、作成中の粘弾性測定において、安定した測定の達成のためには試料液体を流通させることが有効であると考えられるため、微小体積流通用のポンプを新たに購入することとする。
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Research Products
(5 results)