2019 Fiscal Year Research-status Report
Bifurcation of spatio-temporal oscillation pattern on transportation network of slime mold
Project/Area Number |
19K03774
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
高松 敦子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20322670)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 結合振動子系 / キメラ状態 / 複雑ネットワーク / 粘菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
人工物から生物まで、非線形振動子間の同期現象は長い間研究者を引きつけてきた。近年、複雑ネットワークの研究が進展すると、ネットワーク上の結合振動子系の振る舞いも注目されてきた。さらに、同一の性質を持つ振動子集団でも、ある条件下では、同期する集団と非同期な集団に自発的に分かれてクラスター化する「キメラ状態」という現象が発見され、現在に至るまで多くの研究者の興味を引いている。しかしながら、その研究の多くは抽象的な数理モデルを用いた数値シミュレーションや数学的な解析に関する研究が主流であり、自然現象、特に生命現象の中での報告はまだない。 そこで、本研究では、振動性細胞である、真正粘菌変形体をモデル生物として複雑ネットワーク上に現れる時空間振動パターンの解析を行う。粘菌は細胞の厚みを振動させながら環境中を這い回る。その巨大な細胞を維持するために輸送管ネットワークを発達させた。粘菌が新たな環境に置かれてから適応するまでの期間、ネットワーク形態と時空間振動パターンは大きく変化する。特に、振動数を分析すると、単一振動数から多重振動数へと分岐し、その分岐点が、ネットワーク形態と粘菌の行動の分岐点に対応することをこれまでに見いだしている。本研究では、2次元状の複雑ネットワーク上に粘菌に特化した結合振動子系の数理モデルを構築し、実験観測事実と照合しながら、多重振動数分岐現象の理解を進める。さらに、誘因・忌避などの多様な環境下での観察・解析を行うことで、多重振動数分岐機構の生物としての意味を探る。さらには、数理モデルを縮約し、一般の複雑ネットワークへの適用可能性を探ることを目指している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況について、以下の区分により自己点検による評価を行い、プルダウンから現在までの進捗状況の区分を選択すること。なお、学術研究においては当初予期していないことが起こることがあるため、その場合にも以下の区分において判断をしてください。 2次元状の複雑ネットワークによる粘菌結合振動子系モデルを構築するにあたり、19年度はまず、これまで粘菌で見られた振動数分岐現象を再現するために、基礎となるリング上に結合した系について検討をおこなった。 結合振動子系の理論で近年発見されたキメラ状態と呼ばれる現象との比較を行いながらモデル系の構築を行った。キメラ状態とは、同一の性質を持つ振動子集団でも、空間的に非対称な結合を持つと、同期する集団と非同期な集団に自発的に分かれてクラスター化する現象である。粘菌は、近くの原形質は化学物質の拡散によって正の相互作用し、遠くの原形質とは、輸送管を通した圧力差によって負の相互作用をする。そこで、リンク状に配した振動子間でこのような空間非対称な結合を持つ振動子モデルを構築した。 これまでに調べられているのは、正の相互作用の強さに非対称性がある結合振動子系であった。その場合には、位相同期するクラスターと、非同期のクラスターに分かれてキメラ化して振動することがわかっていた。今回、相互作用に、正負2重の非対称結合を考慮したことで、その二つの非対称性のバランスに応じて、多様なキメラ状態が観測されることがわかった。その中で、反対位相同期クラスター/非同期クラスターを示すパラメータ領域では、2重の振動数分布を、反対位相同期クラスター/位相スリップ/非同期クラスターを示すパラメータ領域では、3重の振動数分布を示すことを見出した。このパラメータ依存の振動数分布分岐に仕方が、粘菌輸送管ネットワークで見られたものと非常によく似ていることが確認された。
|
Strategy for Future Research Activity |
19年度では、リング状に配した正負非対称結合の振動子モデルで、振動数の多重性とその分岐現象が確認できた。現時点では、振動子系のサイズ(振動子の個数)は固定で、非対称性のバランスのみを変化させているので、粘菌輸送管ネットワークの成長過程に直接対応はしていない。そこで、非対称性のバランスは固定のまま、集団サイズを変化させた場合について検討する必要がある。さらに、粘菌輸送管ネットワークは、自然状態では環境に依存して、樹状に分岐したり、網目状のネットワークを形成したりする。このようにネットワーク形状が変化した場合の影響も調べていく必要がある。 一方で、リング状の結合振動子系は、最も単純化された系であり、解析の際に非常に見通しが良い系でもある。そこで、実験系のアプローチとして、粘菌をリング状に形成して、そのリングサイズを変化させた場合の振動パターンを解析することを予定している。その結果は、数理モデルによる結果との対応関係が付けやすいことから、非対称性のある相互作用の効果がより明瞭に分析できることを期待している。
|
Causes of Carryover |
消耗品購入額が予想より低く抑えられたため、8万円強の端数が残額として生じたが、2年目計画において、同様に消耗品購入用に計上する。
|
Research Products
(2 results)