2021 Fiscal Year Research-status Report
回転分子モーター蛋白質の駆動力伝達部位の弾性が回転速度・トルクに与える影響
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19K03776
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Research Institution | Osaka Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
古池 晶 大阪医科薬科大学, 医学部, 准教授 (60392875)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ATP合成酵素 / 分子機械 / 分子モーター / 1分子観察 / 1分子生理学 / タンパク質の弾性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ATP合成酵素(FoF1)は,2つの回転分子モーターFoとF1が共通の回転軸で連結されたユニークな構造をもつ。分子構造をほとんど変えず,その回転軸(駆動力伝達部位)の弾性率(物理的性質)だけを変えるという方法で,分子内のトルク発生(力と方向)や回転速度が,分子内のどの部分で制御されているかを明らかにすることが本研究の狙いである。 本年度までATP活性部位をもつF1について分子内の駆動力伝達を調べてきた。回転軸γは反平行αヘリカルヘリックス構造の棒状部分を持ち,F1の円筒型の固定子(α3β3リング)に深く刺さって,リング上部領域と下部領域のみで接触している。中間領域は接触しないため,回転の駆動力伝達だけを担うドライブシャフトといえる。この領域の2本のαヘリックスに自由回転部位を,2本ともに導入した「ドライブシャフトの弾性がゼロの変異体N」と,1本にだけに導入した「ドライブシャフトの弾性を弱めた変異体A」という回転軸の弾性率を変えた2通りのF1変異体を作製して調べた。 ほぼ無負荷での回転速度は,野生型では~180回転/秒であったのに対し,変異体Aではほとんど変わらず,変異体Nでは,~45回転/秒であった。回転速度は,ドライブシャフトの弾性を弱めたくらいでは変わらず,ゼロにしても,約30%の回転速度を維持できることを意味している。また,回転軸の下部接触領域をなくしたF1変異体の回転速度が~3回転/秒と激減したことから,下部接触領域が回転速度の維持に特に重要な役割を果たしているようである。変異体Nは,下部領域で発生した回転をうまく上部へと伝達できないはずであり,これらの結果は,「回転子だけが回転速度を伝達する」という直感的にわかりやすいマクロのモーターの回転機構では説明できない。ミクロのモーターでは「固定子もまた回転速度の伝達の役割を担う」可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度も新型コロナウィルス(COVID-19)の断続的な感染拡大に見舞われた。昨年度までのように,単に学内への立ち入り禁止や遠隔授業への切り替えにとどまらず,感染状況に応じて,対面授業と遠隔講義のハイブリッド等,多様な対応を迫られた。教育へのエフォートはさらに増え,研究時間をほとんど確保できない状況が続いた。対照実験のための変異体の回転観察・解析,より高精度の回転観察を行うための顕微鏡の改良,予備的な生化学実験,金粒子の修飾方法改善などは行えたが,本研究課題の遂行状況は遅れている。2021年度が当初の最終事業年度であったが,研究終了に至らなかったので期間延長を申請した(承認済み)
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究計画の遅れは,大学教育エフォートの増加に伴う研究時間の圧迫に伴うものであり,研究計画そのものに問題が生じたわけではない。本年度は,昨年度に行う予定だった計画を,当初の研究計画に沿って行う。具体的には,変異体作製・精製やATP分解/合成速度の測定を再開する。特に,回転軸の弾性を弱めた変異体の種類を増やし,それらの変異体の回転運動の測定・解析を行う。また,F1変異体Nと野生型Foの複合体の作製およびそのATP合成活性の有無を明確にする。それらの結果から,ATP合成酵素におけるトルク変換や速度制御に,回転軸の弾性がどのように寄与しているのか見積もる。
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Causes of Carryover |
2021年度も新型コロナウィルス(COVID-19)の断続的な感染拡大に見舞われた。昨年度までのように,単に学内への立ち入り禁止や遠隔授業への切り替えにとどまらず,状況に応じて,対面授業と遠隔講義のハイブリッド等,多様な対応を迫られた。教育へのエフォートはさらに増え,研究時間の確保が困難になった。2021年度が当初の最終事業年度であったが,期間延長を申請し,承認された。次年度繰越額分の助成金は, 2021年度の研究計画の遅れに伴い生じた。本年度はその遅れた2021年度の計画部分に沿って使用する。
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Research Products
(1 results)