2020 Fiscal Year Research-status Report
Improvement of critical current of Nb3Sn wire by neutron irradiation
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19K03804
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Research Institution | National Institute for Fusion Science |
Principal Investigator |
西村 新 核融合科学研究所, その他部局等, 名誉教授 (60156099)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菱沼 良光 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (00322529)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 中性子照射 / 照射効果 / Nb3Sn / 臨界曲面 / 臨界電流 / 核融合 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブロンズ法および内部スズ法で製作したNb3Sn線材をベルギーの原子炉(BR2)で1.0E+22から3.0E+23 n/m2(0.1 MeV以上)の範囲で中性子照射し、それらの試料の8Tから15.5Tでの臨界電流および臨界温度の計測を行った。Nb3Sn試料は、ブロンズ法および内部スズ法で作成したもので、それぞれ2種類、合計4種類の試料を中性子照射した。照射によって臨界電流はいったん増加し、その後減少することが複数の試料によって確認され、現象が再現性のあるものであることが確認された。中性子照射によって超伝導特性がどのように変化するかを包括的に議論するため、臨界温度、臨界磁場、臨界電流の3つの変数によって決定される臨界曲面の変化を検討し始めている。照射欠陥の導入により臨界曲面が膨張し、更なる照射欠陥の導入、高速中性子によるはじき出し効果により臨界曲面が収縮することが証明されつつある。特に臨界磁場の劣化が著しく、量子化磁束のピン止め効果が低下することが照射による劣化の一つの大きな要因であることが考えられる。 今後はこのような包括的な超伝導特性の議論を通じて、臨界電流などの超伝導特性の向上や劣化の全体像を理解することが重要である。特に、臨界電流、臨界磁場、臨界温度のうち、どの特性が最も影響を受けるかを明確にし、その背景となるメカニズムを明らかにする必要がある。 照射後の超伝導特性試験は東北大学大洗センターで実施した。研究費の多くはそのための旅費に支出した。2020年度では、COVID-19のため、予定されていた国際会議がOnline会議に変更され、時差などの問題で参加できなくなったものがあった。そのために31万円ほどの予算を次年度に繰り越した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の初年度(2019年度)、本年度(2020年度)では、ベルギー原子炉BR2での中性子照射ならびに照射後超伝導特性試験が順調に進められた。ブロンズ法で製作した2種類のNb3Sn試料および内部スズ法で製作した2種類のNb3Sn試料、都合4種類の試料の、BR2での中性子照射が継続して実施されており、東北大学金属材料研究所大洗センターでの照射後試験が精力的に進められている。中性子照射効果をさらに詳細に検討するため、中性子線量を変えた照射試験をBR2で計画中である。これらの照射後試験結果から、超伝導臨界曲面の膨張、収縮が明確になり、研究成果の質、信頼性を大きく向上させることができる。中性子照射後の超伝導特性試験は大きな被ばくもなく、順調に進められている。これは、本研究課題開始前の先行研究において、放射化試料の取扱い技術、高磁場マグネットや温度可変インサートの運転、制御技術、臨界特性測定技術、測定手法などが確立されていたことに寄っている。 超伝導臨界曲面の評価は、これまで世界中で実施されてきた研究成果に基づくもので、すでに照射前の複数の試料でその評価手法の妥当性が検証されている。中性子照射試料については、順次評価を進めているところであり、再現性の検証も進めている。 これまでの結果によると、中性子照射によって臨界曲面が膨張し、臨界電流は向上するが、照射線量が増加すると、照射欠陥量が増加し、また、高速中性子によるはじき出しのため、特に臨界磁場の減少が大きく、そのために臨界電流が大きく劣化することが明らかになりつつある。臨界曲面は、1960年代の研究以来、経験式などで表示されることが多いが、照射した試料については、これらの経験式に適合しないようなケースもありうるものと思われる。すなわち、冶金的な手法によるピン止め点の増加やピン止め力の増加とは異なる機構が存在する可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
ベルギーでの原子炉照射を継続する。中性子照射量は1.0E+22から5.0E+23 n/m2(0.1 MeV以上)程度とし、照射条件を変え、データの蓄積を推し進める。これまでの照射効果に関する研究では、照射量を対数で表記されてきているが、多くのデータを集積することにより、普通目盛りで臨界電流と照射線量の関係を表記することができるようになり、普通目盛りを基本に議論することが可能になる。 中性子照射後の超伝導特性測定は、測定方法、データ整理方法がほぼ確立されている。放射線管理区域内での実験時間を増やすことによって、着実にデータを増やし、データの再現性、信頼性を上げることができる。次年度も、可能な限り実験日程を確保し、臨界電流、臨界磁場、臨界温度の計測を継続して実施する予定である。 これらのデータに基づき、超伝導臨界曲面の膨張、収縮、変形挙動の総合的、体系的な把握に努め、その変化の機構を解明するとともに、中性子照射特有の超伝導特性向上、劣化の様相を際立たせ、その有用性について議論を進める予定である。 同時に、中性子照射技術、被ばく低減技術、超伝導特性評価技術など、貴重な実験技術を次世代に継続する。これらの技術は高温超電導線材やテープ材など、現在展開が進められている幅広い分野へ貢献するものと期待されている。
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Causes of Carryover |
COVID-19のために、参加を予定していた国際会議がOnline会議となり、旅費を支出する必要がなくなったために次年度使用額が生じた。この金額は、次年度の研究費として使用する。特に、実験を実施するための旅費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)