2019 Fiscal Year Research-status Report
プラズマモデリングの高精度化を目指した電子衝突断面積の精密定量測定
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19K03812
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
星野 正光 上智大学, 理工学部, 教授 (40392112)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 低エネルギー電子分光 / プラズマ素過程 / 衝突断面積 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,半導体プロセスや核融合等のプラズマモデリングの入力データとして理論的な電子衝突断面積が用いられてきたが,その計算値が実験的な衝突断面積と大きくかけ離れた値を示すこともあった。そのため,現実により近い高精度なモデリング向けて必要不可欠な衝突断面積を実験的に精密測定することで理論計算の有用性を検証し,データベースを構築することが急務である。具体的には,低温プラズマを支配する加速エネルギー数eV程度の電子と気相原子分子との衝突における微分断面積(DCS)の角度分布を広角度範囲,すなわち散乱角0-180度近傍まで測定する。これは全角度範囲のDCSを積分して得られる積分断面積がモデリングの入力データとなるためである。従来使用される電子分光装置は,幾何学的制約から散乱電子の測定範囲は約20-130度程度に限定され,それ以外の角度は理論計算や実験データの外挿を用いて衝突断面積が決定されてきた経緯から,特に極性分子に対して0度近傍の見積もり次第では大きな不確かさの要因となることが問題であった。そこで実験的に前方と後方の散乱電子を検出するための装置開発と改良を行い,より現実に近いモデリングのための基礎データの定量測定を目的とした。 従来低エネルギー電子ビーム制御ではビームの発散効果による空間的広がりを避けられないことから,今年度は前方散乱に着目し,大強度で平行化された電子ビーム生成のための電子銃を設計開発し,同時に電子ビーム軌道シミュレーションを通じてその条件確認を行った。また,これまで測定されてきた極性分子特有の前方散乱に対する0度方向への外挿をより正確に行うための近似計算法を実行し,従来の高角度散乱データと比較することでより高精度な衝突断面積を得ることに成功した。今後はこの計算と実測を比較することでより高精度な衝突断面積測定を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は前方散乱した電子の検出を目指し,従来に比べてより平行化した電子ビーム生成を目指した装置開発を行ってきた。細く絞られた平行な低エネルギー電子ビーム生成を実現するためには,大強度の電子ビームを複数枚の極めて狭い幅のスリットを実装した静電レンズで制御することが必要不可欠である。そのため,新たに開発された電子ビーム制御部分の電子ビーム軌道シミュレーションをSIMION8.0を使用して行い,最適条件を得ることに成功した。同時に真空装置の立ち上げも行い,既存の真空槽で安定に連続実験を行うための安全回路の作成も合わせて行った。当初の計画では,この真空装置への電子銃の導入とビーム試験実験まで行う予定であったが,電子銃開発と軌道シミュレーションに予想以上の時間を費やしたことから当初の計画通りまでは到達しておらず,やや遅れた状況となっている。しかしながら,開発と同時並行で実験データ,特に極性分子の散乱角度0度方向への外挿の方法について,これまでとは異なる厳密な近似計算を実行し,既存の測定データの見直しを行うことでより高精度な衝突断面積の導出に成功した。この外挿方法は,前方測定が実現した後に比較のため行う予定であったが先に着手できており,成果報告にもつながる結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では,2019年度に前方散乱測定のための電子ビーム源の開発が終了し,2020年度は,130度以上に散乱された電子を検出するための後方散乱実験装置の設計・開発に着手する予定であった。しかしながら,前方散乱のための電子銃開発と軌道シミュレーションに予想以上の時間を要したことに加え,2020年4月の本報告書作成時において,新型コロナウィルス感染防止対策の一環として本研究課題の遂行が困難な状況であることを踏まえ,当初の計画から変更し2020年度後期から昨年度に引き続いて前方散乱用の電子銃の真空装置への導入と試験実験を進める予定である。また,本課題の中で測定された実験データと比較するために予め計画され,開発の遅れから先に着手した前方散乱のより厳密な外挿法を使った高精度な衝突断面積の導出は本課題の関連内容として成果報告が可能であると思われる。 実験の実施時期と実施状況に応じて,後方散乱のための実験装置の設計・開発も同時並行で行う予定であるが,これは最終年度となる2021年度前半へ移動し,後半には前方散乱と後方散乱の微分断面積の定量測定を目指して準備を進める予定である。最終的には,今回開発した装置を用いてこれまで測定された20度から130度のデータの再現性と前方,後方の接続性の確認,および全散乱角度の積分による衝突断面積の導出を,特にこれまで不確定さが大きく先行研究のデータにばらつきのある極性分子に対して行う予定である。得られた測定結果については途中経過まで含めて順次,成果発表を国内外の原子分子会議,およびプラズマプロセスや核融合プラズマに関する諸会議にて報告する予定である。
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