2021 Fiscal Year Research-status Report
プラズマモデリングの高精度化を目指した電子衝突断面積の精密定量測定
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19K03812
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
星野 正光 上智大学, 理工学部, 教授 (40392112)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 低エネルギー電子分光 / プラズマ素過程 / 衝突断面積 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、半導体プロセスや核融合プラズマの挙動の理解するために行われるプラズマモデリングで必要不可欠な電子衝突断面積データを実験で定量的に測定することで、より現実に近いモデリングを目指し、近年利用される理論値の妥当性を検証することを目的とした。特に、低温プラズマを支配する数eV程度に加速された電子と気相原子・分子との1回衝突における微分断面積(DCS)を幅広い角度範囲で定量測定するための実験装置の改良と見直しを行った。これは散乱角0度から180度の範囲でDCSを積分して得られる積分・運動量移行断面積が重要な基礎データとなるためである。しかしながら、従来の電子分光装置では、幾何学的制約から測定可能な角度範囲が約30度から130度に限定され、それ以外は理論計算や実験データのフィッティングによる外挿を用いるため、得られた積分・運動量移行断面積には大きな不確かさが含まれていた。そこで実験的により広角度範囲に散乱された電子を検出するための工夫を行ってきた。 2020年度の新型コロナウィルス感染拡大により遅れていたが、2021年度は前年度のビーム軌道シミュレーションに基づく平行化された電子ビーム生成と前方散乱の検出を行うための改良を行った。その結果、これまで入射エネルギー10 eV以下の弾性散乱DCS測定では、入射電子と散乱電子を区別できないため、前方は30度までの測定が限界であったが、今回の改良でおおよそ10度以下まで拡張でき、いくつかの分子標的のDCS測定を行うことで、従来に比べてより前方の実験的なデータの検証を行った。また、2020年度に新たに提案した極性分子特有の回転励起を考慮した前方散乱に対する0度方向への外挿方法をいくつかの極性分子に対して適用し、信頼性の高い衝突断面積データの評価も行った。後者の結果は、現在投稿論文として準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度の新型コロナウィルス感染拡大による計画の遅れを受け、2021年度は、前年度に行った電子ビーム軌道シミュレーションに基づく並行ビームの形成の最適条件を用いた電子ビーム調整、および実際の測定を行うため電子分析器へ散乱電子の数を制限し、親ビームと区別するための改良を行った。これにより、特に前方散乱強度の大きい極性分子についての電子検出がこれまで限界であった30度程度から10度以下まで可能となり、大幅に改善され、これまで不確定さの大きかった極性分子の弾性散乱微分断面積に対する前方散乱データの検証を行うことができた。この結果に基づき、2020年度から同時並行で行ってきた回転励起と理論計算を組み合わせたより厳密な散乱角度0度方向への微分断面積の外挿方法についても検証することができた。しかしながら、当初の目的であった後方散乱の断面積の検証までは遅れから着手することができていない。そのため、より前方への測定データの拡張と後方の検証を行うために、期間を1年間延長してさらに本課題を進め、成果をまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年の新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、実験室への立ち入りが約半年以上制限され十分な作業時間の確保が困難となったことから、進捗状況は当初の計画より大幅に遅れている。しかしながら、2021年度は前方散乱用の電子ビーム制御と散乱電子分析器の改良により、弾性散乱微分断面積の前方散乱の検出については従来から大きく改善され、アンモニア分子をはじめとするいくつかのプラズマ関連分子の前方散乱の測定を中心に行うことができた。1年間の期間延長が認められたことから、引き続き前方散乱の検証を行うと同時に、後方散乱にも着目した積分断面積、および運動量移行断面積の全体的な検証と評価を引き続き行う予定である。さらに、すでに検討されてきた極性分子の弾性散乱微分断面積の前方散乱について、分子の回転励起と双極子モーメントを考慮したより厳密な外挿法を使った高精度な衝突断面積の導出についても様々な分子標的へ拡張し検討を進めてきたことで、本課題の関連内容の成果報告として現在投稿論文として準備中である。 最終的に、今年度まで得られた前方散乱電子の微分断面積と、すでに測定された30度から130度のデータの再現性と接続性の確認、および新たに提案された外挿法を組み合わせた全散乱角度の積分による衝突断面積の導出を行い、既存の測定データや理論計算との比較を行うことで、特に不確定さが大きくばらつきの大きかった分子標的のプラズマモデリングに必要な基礎データの検証を行う。 得られた測定結果についての成果は,本申請者の所属する日本物理学会及び原子衝突学会などの国内学会始め,プラズマプロセスや核融合プラズマに関する諸会議にて順次報告する予定である。
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