2019 Fiscal Year Research-status Report
Functional Renormalisation Group and Gauge Symmetry
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19K03822
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
伊藤 克美 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (50242392)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
五十嵐 尤二 新潟大学, 人文社会科学系, 名誉教授 (50151262)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 汎関数くりこみ群 / 厳密くりこみ群 / 量子マスター方程式 / ゲージ対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
汎関数くりこみ群は経路積分を使って場の理論を非摂動的に定義する方法である.汎用性が非常に高いことが理由で,物理の様々な問題に応用され成果をあげている. 古典作用を用いた経路積分によって場の理論の定義とするのは単に標語的なもので,実際にそれを使った計算には発散が伴い,正則化とくりこみという処方が必要であることは良く知られていることである.汎関数くりこみ群では,場のとり得る運動量空間に運動量切断によるスケールを導入することで正則化を行う.次に,さらに少し低いスケールまでの場について経路積分を実行する.このとき起こる作用の変化を読み取ることによって,作用に現れる相互作用のスケール依存性を導く.これが,くりこみ群によるフロー方程式である. 運動量空間の切断という正則化はゲージ対称性を素直に尊重しないために,この手法をゲージ対称性を持つ系に応用しようとすると,見かけの困難が生じる.しかしながら,ゲージ対称性は正則化によって変形されながら維持され,その存在は量子マスター方程式の成立ということで簡潔に表現される. フロー方程式と量子マスター方程式が我々が尊重すべき2つの重要な方程式である.それをいかに実現するかが課題である.一般論としては,これら2つの方程式は無矛盾に成立することを証明することができるが,実際の計算で両立させるのは非常に難しい. 2019年度には,T. Morris と五十嵐・伊藤で行っていた共同研究を完成させて公表した.この論文は上記2つの方程式を同時に解く作用の構成を摂動の one-loopで行ったものである.有限のスケールでの作用を陽に与えることができたことがこの論文の成果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究業績の概要で述べた成果によって,有限なスケールの切断のある作用を摂動論的に陽に構成することに原理的な困難はないことが明らかになった. 汎関数くりこみ群は非摂動論的に場の理論を定義することを目的に研究されているものである.我々は,研究業績の概要で述べたことの他に,量子電磁気学に関してフロー方程式の解析を,解析的にも数値的にも行ってきた.この系はゲージ対称性を持つ最も簡単な系で,我々の問題を考察する有用なモデルになっている.数値計算を通じて理論の相構造などが明らかになっているが,フロー方程式の数値解は量子マスター方程式の与える条件を満たしてない.これらの成果は適切な時期に論文として公表するつもりである. 数値解の構成に当たって,相互作用項の種類を仮定した.数値計算をするに当たって,このような Ansatz を置くことは避けて通れない.本研究応募に当たっては,高次の微分を含む相互作用項を加える(一般に,微分展開と言われる立場)ことによって,フロー方程式と量子マスター方程式の関係を改善することを目していた.しかし,昨年の研究の間に,別の改善点が明らかになってきたと考えている. 汎関数くりこみ群による手法が開発される前から,シュビンガー・ダイソン(SD)方程式による方法でも,我々が数値計算で扱った系に関する解析の経験が蓄積されている.SD方程式を用いた解析でも,ゲージ対称性の問題があり,その解決があるとは考えられないが,我々の数値解の改善にはSD方程式による扱いが参考になると思われる.特に,我々の数値解で重要な役割を果たしている2点関数の相互作用依存性の改善のために,SD方程式との比較が重要であると考えるようになった. コロナ禍の影響で国内外の研究者との研究内わせの機会がなく,予算の執行が停滞しており,「やや遅れている」とした.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,前述の数値計算によって得られている結果を論文として公表すること. 次に,項目7で述べた数値計算で,課題として残ったことについて改善の可能性を探ること.具体的には,1)ゲージ場の2点関数を決定する論理を検討し直し,相互作用定数についての高次項の役割を明確にすること,2)微分展開の高次の項,特に,フェルミオン2点関数の運動量依存性について考察すること,3)シュビンガー・ダイソン方程式による研究から学んで,2点関数の決定の論理を改善する可能性を考えること,4)摂動論による作用の構成の方法は明らかになったので作用の Ansatz を摂動論を用いて改善する,などの試みを行い,その結果,フロー方程式と量子マスター方程式の関係が改善するのか検討する. 研究の推進において最も困るのは,コロナ禍の下で,研究のやり方を探らなくてはいけないことである.特に,国内外への出張を行って,直接議論して理解を進める方法から,Web を通じた意見交換という少し間接的な方法に頼らざるを得ない.これからしばらくの間,この状態が続くことを想定して予算の使い方を考え続けなくてはいけない.本研究に限らず多くの研究者にとっての課題となると考えている.
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Causes of Carryover |
旅費を多く申請していたが,コロナ禍の影響で,日本物理学会を含む国内研究会の開催がなくなり,日程調整をしていた海外の共同研究者との打合せもできなくなったことが主因.今後もしばらく不確定な状況が続くと思われるので,はっきりとした使用計画を現時点で立てるのは困難である.今年度も同様の状況は続くものと考えている.京都大学基礎物理学研究所において,厳密くりこみ群の国際会議(ERG2020)を9月に予定し,組織委員として準備を進めて来たが開催は不透明であり,議論のために海外に出張できる可能性があるのかも分からない. 国内外でWeb を通じた学会・研究会の開催が模索される状況の中で,研究会への参加・海外共同研究者との議論も今後数年の間はネットワークに強く依存したものになるかも知れない.ネットワーク環境の整備も一つの選択肢と考え始めている.
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