2020 Fiscal Year Research-status Report
データ解析の数学的手法が描く正準テンソル模型の時空描像と時空概念の普遍性
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19K03825
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
笹倉 直樹 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (80301232)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 勇貴 名古屋大学, 高等研究院(理), 特任助教 (70714161)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量子重力 / テンソル模型 / 正準テンソル模型 / リー群対称性の創発 / 時空の創発 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子重力理論の構築は理論基礎物理学における最大の課題の一つであり、ブラックホールや宇宙の誕生などにまつわる様々な疑問に答えを与えると考えられている。また、量子重力の効果を宇宙現象で観測する時代も近づきつつある。量子重力の模型としてテンソル模型があり、テンソル模型が時空や一般相対論を動力学的に生成(時空の創発)するかどうかを確認することが研究の最終目標である。 空間タイプのテンソル模型は宇宙のような巨視的な空間を生成できないことが既に示されている一方、本研究計画で扱う正準テンソル模型(CTM)は時空タイプのものであり巨視的な時空の創発の可能性があり、このことを示すことが本研究の最終目標である。しかしその波動関数は多重振動積分で表され計算が難しい。今年度の研究の一つは、宇宙項が負の場合に波動関数を計算したものである。この場合は振動が無いためモンテカルロ法で計算が可能である。計算結果の一つはCTMが丁度連続的相転移点上に存在することを示したことである。連続的相転移点は場の理論の存在と密接に関連し、CTMから一般相対論が導ける可能性を示す。しかし、創発される空間の次元が離散的でなく連続的になっているなど、宇宙項が負の場合のCTMは問題がある。 一方、現実の宇宙では宇宙項は正として観測されており、宇宙項が正の場合にはCTMの波動関数は振動積分であり、モンテカルロ法の適用は難しい。今年度のもう一つの研究は、この困難を避けるため、CTMの波動関数とよく似た波動関数を導く行列模型を調べたことである。行列模型では宇宙項の正負に関係なく波動関数を厳密に計算することができる。結果は、宇宙項が負の場合には上記と類似の結果が得られた一方で、宇宙項が正の場合には離散的な次元の空間の創発が得られた。行列模型の結果をそのままCTMのものとすることはできないが、今後の研究に明るい見通しを与える結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体の流れとしては、着実に正準テンソル模型の量子論的性質が明らかになってきている。また、研究結果も、正の宇宙項において現実的な時空が創発されるという方向に着実に向いてきており、全体的な見通しは楽観的である。量子重力の模型として正準テンソル模型を確立するという最終目的も期待できそうである。しかし、一方で進捗状況が芳しくない部分が以下のようにある。 1. コロナ禍により、研究計画に組み込まれている「勉強会」の開催が完全にストップしてしまった。オンラインという手段もあるが、やはり貴重な機会を完全に使いたいという気持ちが強いため、オンラインは行っていない。研究計画の目標だけに向けた研究だけでなく、派生的な研究への膨らみを促すためにもコロナ禍が収束次第、対面での勉強会の再開をしたい。 2. 出張等により研究内容を宣伝したいと考えているが、コロナ禍でままならない状況である。 コロナ禍が終了次第、再開したい。 3. 大学院生との共同研究が2件あるが、いずれも進捗状況が芳しくない。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の方針で研究を行う。 1.これまでの研究から、時空の創発現象は宇宙項が正の場合にしか生じ得ないことがはっきりしてきた。しかし、この場合、波動関数を表す多重振動積分を実行する必要があり、困難である。最近になって、鞍点法を経由する形で、ある種の流体描像に基づいて計算できる可能性が得られた。この流体の有効理論を見出すことにより、波動関数の性質を明らかにすることを目指す。 2.上記の理論計算を数値的に確認するためモンテカルロ法を使う。振動積分は従来のモンテカルロ法では計算できないが、再重み付け法、リフシッツ積分法、複素ランジュバン方など、不完全ながらも方法がいくつか知られているので、それらを試しながら数値計算を試みる。 3.テンソルと幾何的多様体の対応関係をより完全なものにする。以前に提案した方法はラプラシアンの固有関数が必要であるため解析解が存在する場合以外には適用が難しい。より有効な方法として、解析解なしで局所的に実行できる方法を既に得ており、論文としてまとめる。また、この新たな方法をブラックホール、特異点、ホライゾンなどの一般相対論で重要な幾何学的対象に適用し、どのようにテンソルで特徴づけられるかを研究する。 4.テンソルのランク分解はデータ解析への応用があり、応用数学分野において重要なテーマの一つである。これまではテンソルランク分解をテンソル模型の解析に使ってきたが、逆にテンソル模型での研究結果をテンソルランク分解に関する理解につなげる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響が大きい。研究費の使用目的として主に勉強会の開催や出張など研究交流の経費として計画していたため、コロナ禍により実行が不可能となり使用できなかった。このため使用目的を一部変更して、研究計画の実施において有効なモンテカルロ計算等の数値計算用のワークステーションの購入に当てたが、高性能かつ安価な構成に努めショップにオーダーしたこともあり、研究費の大部分を残す結果となった。しかし、研究交流は非常に重要であるので、コロナ禍が終了次第、勉強会の開催や出張を再開し、残額も含め、研究費を有効に使う予定である。
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Research Products
(3 results)