2021 Fiscal Year Research-status Report

宇宙の大規模構造の力学的統計解析を用いた初期宇宙物理学の探求

Research Project

Project/Area Number	19K03835
Research Institution	High Energy Accelerator Research Organization
Principal Investigator	松原隆彦大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (00282715)
Project Period (FY)	2019-04-01 – 2023-03-31
Keywords	宇宙マイクロ波背景放射 / 宇宙の大規模構造 / 弱重力レンズ場 / ミンコフスキー汎関数 / 非ガウス性 / 統合摂動論 / テンソル場
Outline of Annual Research Achievements	宇宙の観測データから初期宇宙の情報を得るためには、宇宙論的観測量の統計的情報を用いることが必要とされる。本年度は、宇宙マイクロ波背景放射や宇宙の大規模構造、弱重力レンズ場などの宇宙論的ゆらぎの場に含まれる形態的またはトポロジカルな情報を得る方法として宇宙の解析に用いられている統計量である、ミンコフスキー汎関数に対する一般的な解析的研究を引き続き行い、複数の論文として発表した。この研究は数年前から統計数理研究所の栗木哲氏と継続して行ってきた共同研究で、長期間の試行錯誤の果てに驚くべき数学的な解析的表現を見出した。本年度特に進展したのは、具体的な宇宙の大規模構造の解析に新たに得られた解析式を応用するための数値シミュレーションの解析である。摂動的な解析式の正当性をかなり高い精度で数値的に確かめられた。その結果、大スケールにおける摂動論の適用できる範囲で、理論予言と極めてよい一致を示すことがわかった。また、本年度は大規模構造に関する解析的手法の開拓に関して新たなアイディアに基づく研究を開始した。とくに統合摂動論をテンソル自由度を含む場合に拡張する定式化に関して大きな進展があった。特に、一般的なテンソル場を既約テンソルによる回転不変な自由度のみで表現して、それを統合摂動論で整合的に計算するための数学的定式化を行った。これについては引き続き研究を進め、できるだけ近いうちに論文として発表する予定である。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 1: Research has progressed more than it was originally planned. Reason 研究計画の時点では全く予想していなかった理論的進展として、統合摂動論をテンソル自由度を含む拡張の可能性に気づき、具体的な定式化を相当程度進めた。これは銀河形状などを用いた新たな宇宙論研究の可能性を切り開く重要な進展と考えている。
Strategy for Future Research Activity	ピーク統計やミンコフスキー汎関数などを理論的に理解できる解析的定式化に関する研究が相当程度進んだため、これを実際の具体的な宇宙論的な問題に応用する研究をさらに進める。初期宇宙のモデルに関する非ガウス性を使った検証や、基本的な重力理論である一般相対性理論の検証などをどのように行えるかに関する理論的枠組みを調べる。さらに理論的な統合摂動論の拡張に関する基本的な定式化を完成させる。
Causes of Carryover	本年度も新型コロナの影響により、当初予定していた旅費や謝金を使用することがなかった。物品費としても当初予定よりも安価な機器の導入で済んだ。次年度はこの資金を用いて、よりよい計算機器を導入することで研究における計算の効率化を図る。