2019 Fiscal Year Research-status Report
Probing quantum spacetime structure via exact results of gauge theories
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19K03845
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
奥山 和美 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (70447720)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ベビー宇宙 / 正則アノマリー方程式 / Jackiw-Teitelboim重力 / ワームホール / KdV方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は時空のトポロジー、特にワームホールやベビー宇宙の寄与を念頭に研究を行った。まず、ラージN極限の2次元ヤンミルズ理論に双対な弦理論ではベビー宇宙の生成の寄与があるという予想が2000年代になされたが、我々の研究で2次元ヤンミルズの分配関数にはこの寄与は入っていないということがわかった。分配関数の構造を更に調べるためには正則アノマリー方程式の構造を知る必要がある。1990年代にDijkgraafによって予想された方程式には誤りがあり、正しい方程式はこれまで知られていなかった。今回の研究で正しい正則アノマリー方程式を発見し、30年来の問題に決着をつけることができた。この方程式はフェルミ気体とも関係することが示唆されるため、さらなる研究が俟たれる。 次に、ランダムな量子力学系に双対な2次元重力における時空のトポロジーを研究した。まず、簡単のために量子力学系をランダム行列に置き換えた系において、複数の境界を持つ時空の相関関数の温度依存性を調べた。高温では境界がつながっていない時空が支配的であり、温度を下げていくと相転移点以下では境界がつながった時空が支配的になることを、解析的な表示を用いて具体的に示した。相転移点近傍では複雑につながったワームホールネットワークが形成されることを議論した。 最後に、2次元Jackiw-Teitelboim重力におけるベビー宇宙の足し上げについて研究した。Saadらによって示されたJT重力とランダム行列理論の等価性を用いて、ベビー宇宙の生成の寄与を非常に高次まで計算することに成功した。また、JT重力は2次元位相的重力の特殊な背景に対応し、JT重力の分配関数の計算は昔の2次元重力のマクロ的ループ演算子の計算と等価であることを示した。更に、背後にある可積分構造、特にKdV方程式を用いてベビー宇宙の寄与を漸化的に計算する手法を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
時空の量子的な構造、特にトポロジーの足し上げ規則についてJackiw-Teitelboim重力を例にとって研究を進めた結果、その理解に大きな前進が見られた。これはランダムな量子力学系とアンサンブル平均を含んだ重力双対におけるトポロジーの足し上げ規則の一般的な性質であると考えられる。その背景にはランダム行列模型が重要な役割を果たしていることも明らかになってきた。高次元のAdS/CFT対応ではランダム平均がどのような役割を担っているか明らかではなく、今後の研究の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
Jackiw-Teitelboim重力を例にとって、時空のトポロジーの足し上げ規則について更に研究を進める。我々の論文で開発した計算法を時空の境界が複数ある場合に拡張し、ワームホールの寄与がどのように入ってくるのかを調べる。その際、境界を生成する演算子が重要な役割を果たすことが次第に明らかになってきた。これは最近MarolfとMaxfieldにより議論されているベビー宇宙の状態空間の議論とも関係が示唆されるため、更に研究することを予定している。また、StanforとWittenによってJT重力の超重力への拡張が議論されており、この場合にも2次元位相的重力やKdV階層との対応が見られるのかを調べていきたい。 更に、このような2次元重力のトポロジー足し上げ規則の研究から得られた知見が、高次元のAdS/CFT対応にどのように拡張されるかについても調べていきたい。2次元JT重力は4次元の荷電ブラックホールのホライズン近傍を記述する有効理論という側面があるため、4次元ブラックホールに焦点を当てて高次元への拡張を試みることを予定している。
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Causes of Carryover |
予定していた国際会議への参加を見送ったため、外国旅費が予定より少なくなり次年度使用額が発生した。次年度はコンピューターの更新を予定しており、その購入のために繰越分の予算を使う予定である。
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