2020 Fiscal Year Research-status Report
Probing quantum spacetime structure via exact results of gauge theories
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19K03845
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
奥山 和美 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (70447720)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | JT重力 / ジーナス展開 / クエンチした自由エネルギー / 行列模型 / 位相的重力 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は昨年度に引き続き、JT重力を記述する行列模型の研究を行った。時空の境界がひとつの場合のジーナス展開のKdV方程式を用いた計算法を拡張し、時空の境界が複数ある場合のジーナス展開を計算する手法を開発した。2次元重力で知られていた境界を作る演算子を位相的重力の自由エネルギーに掛けていくことで、複数の境界を持つ時空を構成することができる。自由エネルギーから計算される比熱が満たすKdV方程式に境界を作る演算子を掛けていくことで、複数の境界の相関関数が満たす方程式が得られ、それを用いてジーナス展開を系統的に計算できることを示した。この手法の重要な応用として、2点関数の解析接続として得られるスペクトル形状因子について調べた。位相的重力の性質からこの量は誤差関数の形にまとまることがわかり、時間の関数としてランプとプラトーと呼ばれる振る舞いを示すことを具体的な計算により示すことができた。 次に、JT重力のジーナス展開の手法をJT超重力の場合に拡張した。超リーマン面のモジュライ空間上の交差数の母関数がBrezin-Gross-Wittenのタウ関数で与えられるという事実を用いると、BGWの自由エネルギーを切断縫合演算子の手法で計算することにより、JT超重力のジーナス展開が系統的に計算できることがわかった。 JT重力の研究から低温領域でのトフーフト展開が有用であることが見出されたが、これは一般の位相的重力で議論できることに気づき、開リーマン面の自由エネルギーのトフーフト展開を一般の背景で系統的に計算することに成功した。 また、ランダム系のクエンチした自由エネルギーの例として、ガウス型行列模型の場合を計算し自由エネルギーが温度の関数として単調減少することを示した。更に一般のランダム系に適用できるクエンチ自由エネルギーの表式を発見し、行列模型のエアリー極限の場合に具体的に計算した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
JT重力の行列模型の解析に、90年代に盛んに研究されていた2次元重力の手法がそのまま適用できることがわかり、JT重力の理解が大幅に進んだ。90年代との大きな違いは、それまで弦理論のなかで孤立していると思われていた2次元重力にホログラフィーという観点が持ち込まれたことである。このことにより、2次元重力や位相的重力をホログラフィーという視点から統一的に議論することが可能になった。 酒井一博氏との共同研究で、JT重力と位相的重力に関する論文を3編発表することができた。これは当初予定していたペースより大幅に多い論文数で、当初の計画以上に研究が進展したことを物語っている。 今年度の後半には、クエンチされた自由エネルギーの研究に着手し、2編の単著論文にまとめることができた。これは当初予定していた研究テーマではなかったが、EngelhardtらによるJT重力の自由エネルギーの研究に触発され、行列模型の場合には自由エネルギーの一般的な表式を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度もJT重力の性質を調べることにより、量子重力の基本原理を探る研究を引き続き行う。JT重力の相関関数は行列模型のシュウィンガー・ダイソン方程式から従うループ方程式を満たすが、ホログラフィーの観点からは境界の数が異なる時空の間の関係式と見なすことができる。しかしその時空解釈は明らかになっていないので、様々な観点からこの方程式の量子重力的な意味を検討していきたいと考えている。 また、クエンチされた自由エネルギーの研究から、レプリカ法によらない表式が有用であることが認識された。エンタングルメント・エントロピーのレプリカ法によらない計算法を開発し、ホーキング輻射におけるページ曲線を再導出しレプリカ法と比較することを検討している。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症の影響で、参加を予定していた国際会議や国内の研究会が軒並みオンラインに移行したため、当初予定していた旅費の支出が無くなり、次年度使用額が生じた。 次年度も研究会のオンライン開催が続くことが予想されるため旅費による支出は断念し、パソコンと計算用ソフトウェアの環境整備のために支出することを考えている。
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