2021 Fiscal Year Research-status Report
Xi hyperons and strangeness nuclear physics
Project/Area Number |
19K03849
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
河野 通郎 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (40234710)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | Ξハイペロン / カイラル有効場理論 / バリオン間相互作用 / 核物質計算 / Ξポテンシャル / Ξ生成スペクトル / Faddeev 計算 / ストレンジネス核物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
私達の日常の世界は、クォークのレベルで存在する6積額のクォークのうち、軽い2つのアップとダウンクォークで構成される陽子と中性子(核子と呼ぶ)が束縛した原子核が基本的な要素である。少し重いストレンジクォークの自由度は実在していないが、宇宙の進化過程などで現れる高エネルギーあるいは高密度下での反応過程では役割を果たす。ストレンジクォークを1つ含むΛハイベロンとΣハイベ口ン、そして2つ含むΞハイペロンと核子や原子核との相互作用を解明することは、クォークが形作るバリオン世界の全体像を理解するための基本的課題である。私は、核子間相互作用に基礎をおいて原子核の構造と反応を微視的に理解する研究を手掛け、対象をΛおよびΣの核媒質内での性質の研究に拡張してきた。その先の課題としてΞハイペロンの問題に取り組む。核媒質中でのΞと核子の相互作用を考えるには、ΛやΣとの結合を考慮しなければならず、これまでの研究の蓄積に基づく総合的な扱いが必須である。近年、バリオン間相互作用の理論的記述に進展があり、クォークレベルの標準理論である量子色力学に基礎を置くカイラル有効場理論を用いたパラメータ化が進み、核子間相互作用について2核子の散乱実験データを精度良く再現する相互作用記述が得られている。その枠組をハイペロンと核子に適用する研究も進んでいる。この研究課題では、その予測性が高いと考えられるパリオン間相互作用を用いて、原子核中でのΞハイペロンの存在様式を理論的に考察する。世界的に、Ξを生成して原子核との相互作用を調べる実験が進行中であり、日本のグループも大強度陽子加速器施設においてΞと原子核の束縛状態や(K-,K+)反応による原子核上でのΞ生成スベクトルを測定する実験が進行し、新しいデータが得られている。これらに対し、現象論的な解析には収まらない、バリオン間相互作用に基づく微視的記述に基礎を置く解析を行う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、カイラル有効場理論の枠組みでパラメータ化されたバリオン間相互作用を用いて微視的に求めたΞと核子の核媒質内有効相互作用が、少数である上に不定性が大きいものの、既存の実験データと矛盾しない原子核中のΞの性質を予測することがわかった。その有望な結果を受けて、大強度陽子加速器施設(J-PARC)で新しく同定される束縛状態や近い将来明らかになる実験データに関する理論的検討を行った。重い原子核におけるΞのポテンシャルエネルギーや、電磁力により原子核に束縛されるΞ-のエネルギーがΞと原子核の相互作用による影響で変位する大きさの評価、そして(K-,K+)反応によりΞが生成されるスペクトルについては素過程(K-)+p->(K+)+(Ξ-)のエネルギー依存性に注意を払った計算などである。基礎となる2体相互作用のスピン・アイソスピン依存性に立脚した微視的予測は、現象論的解析では導くことができない内容を含む。その研究成果は、Prog. Theor. Exp. Phys.に発表した。 カイラル有効場理論のΞN相互作用ではΞN2体系は、どのスピン・アイソスピンチャンネルでも束縛しないと予測される。その場合、相互作用を精密化する基礎的実験的情報として重要となるのは3体系の束縛状態あるいはΞと重陽子の散乱データである。対応して理論的に厳密な量子多体問題を考えなければならない。そこで、ΞNNの束縛状態が存在するかどうかという問題を、Faddeev 方程式を解くことにより調べたが、結果は否定的であった。したがって実験的にはΞと重陽子の散乱状態の情報が重要なものとなるが、直接的な散乱実験は困難である。ただし、重イオン散乱実験データの解析により相関の実験的情報が得られている。その厳密な理論的記述を目指して、Ξと重陽子散乱を記述するFaddeev形式の数値計算プログラムを作成した。
|
Strategy for Future Research Activity |
核子間にはたらく核力の理論的記述の研究には長い歴史があるが、現在ではカイラル有効場理論の枠組みで構築される相互作用が、核力に基づいて第1原理的に原子核の構造と反応過程を理解する研究において標準的に用いられている。ハイペロンと核子の相互作用についても、カイラル有効場理論によるパラメータ化が行われ、ハイペロンを含むバリオン間相互作用の包括的理解に向けての研究が進められている。私は、その相互作用記述に基づいてハイペロンと核子の核媒質内有効相互作用の研究を行っていて、ΛとΣハイペロンの研究に続き、本研究ではストレンジクォークを2つ含むΞハイペロンを課題としている。これまで、カイラル有効場理論のパリオン間相互作用を用いて核物質計算を行い、得られた核媒質内のΞN有効相互作用を用いて14Nなどの原子核におけるΞのポテンシャルエネルギーを求めて束縛状態を予測し、既存の実験データとほぼ対応する結果を得た。このことは、用いる相互作用が妥当でありこの方向での研究を続けることが有意義であることを示すものであり、引き続きより重い原子核におけるΞの束縛状態や(K-,K+)Ξ生成スベクトル計算を行い、その研究成果を発表した。Ξが原子核に束縛される状態の現在の実験データは少なく、また不定性が大きい。今後のより多くの原子核そして精度の向上した新しい実験データが期待される。そのデータの向上に合わせ、スピン・アイソスピン依存性微視的検討を含む相互作用記述の精密化をはかる。また、現在のハドロン物理研究で重要な課題になっている3体力の寄与を具体的に検討することに着手する。これまで核子の場合に行った手法でΞNN3体力を有効2体力化することによりその寄与を取り入れることに加えて、3体系の厳密な記述であるFaddeev計算の中で3体力として直接扱う計算法の開発を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
日本物理学会やその他の研究会が引き続きオンライン開催になったこと、また予定されていたヨーロッパでのハイパー核物理国際会議が1年延期されたこと、そして研究交流のための出張も全く行うことができなかったため、旅費の支出が無かった。
|