2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K03854
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
辻川 信二 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30318802)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ダークエネルギー / ダークマター / 物質揺らぎ / スカラー・テンソル理論 / ベクトル・テンソル理論 / ブラックホール / 中性子星 / 重力波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,ダークエネルギーの起源となるスカラー場またはベクトル場が,完全流体で記述されるダークマターと結合している理論において,物質揺らぎの基礎方程式の導出とダークマター揺らぎの成長率に関して一般的な定式化を行った.これらの成果は3編の学術論文として執筆し,すでに出版されている.さらにこのような理論を拡張させ,ダークエネルギーとダークマターがともに完全流体であり,4元速度の差を通じて両者が結合している理論を,ラグランジアンのレベルで定式化した.その枠組みにおいて,有効な宇宙の後期加速膨張の模型を構築し,2つの暗黒成分の間に運動量の交換がある場合に,ダークマター揺らぎの成長率が抑制されることを示した.このことにより,標準的な宇宙項模型よりも観測的に好まれる可能性があることと,ダークエネルギーとダークマターの間の関連性について重要な示唆を与えた. また,ダークエネルギーの起源にもなり得るベクトル・テンソル理論において,中性子星がベクトル場の影響を受けた自発的なベクトル化という現象が起こることを示した.この現象が起こる場合の中性子星の質量,半径などについて詳しく調べ,一般相対論の解との違いを明らかにした.さらに,スカラー・テンソル理論において自発的なスカラー化が起こる場合の静的・球対称の相対論的な星に関して,奇パリティと偶パリティの両方の摂動を考えることでその安定性について議論した.特に,質量を持たないスカラー場とスカラー曲率が非最小結合している模型において,スカラー化した中性子星が安定であることを示した.その一方で,スカラー場とアインシュタインテンソルが非最小に結合しているような模型の場合には,スカラー化した解は一般的に音速の2乗が負になるような不安定性を持つことを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ダークエネルギーとダークマターの関連性を明らかにすることを目的として,ダークエネルギーがダークマターとエネルギー及び運動量の交換を行なっている系において,密度揺らぎの一般的な定式化を行なったことは今後の研究の進展の上で大きな意味を持つ.これらの成果を用いて,理論的かつ観測的に有効なダークエネルギーとダークマターの模型を絞り込んでいくことが可能になっていくので,研究は順調に進展していると言える. また,スカラー化またはベクトル化した相対論的な星の安定性について詳細に調べ,どのような理論の場合に星が安定であるかを明らかにしたのは,強重力領域においてスカラー場やベクトル場のような新しい自由度の存在を探る上で価値があることである.このような成果は,連星系合体の後の準固有振動の計算などにも応用できるため,今後の重力波観測から一般相対論からのずれを探る意味でも発展性のある研究である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず,ダークエネルギーとダークマターが運動量交換を行なっている模型において,宇宙背景輻射,Ia型超新星,バリオン音響振動などの様々な観測データを用いて統計解析を行い,ダークエネルギーとダークマターの結合の兆候について明らかにする.さらに現在までの観測で,標準的な宇宙項模型では現在のハッブル定数の値がいくつかの観測の間で一致しないことが知られているが,そのような不一致を改善する模型が存在するかについて調べていく. また,中性子星やブラックホールに関して,自発的なスカラー化やベクトル化が起こる条件について一般的に明らかにする.さらに静的・球対称時空で摂動を考えることによって,どのような場合にスカラー化やベクトル化を起こした星が安定であるかを調べる.さらに,連星系合体の際の潮汐変形や,合体後の星の準固有振動の理論計算を行い,重力波の観測からスカラー場やベクトル場の兆候を探っていく.
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Causes of Carryover |
講演を予定していたいくつかの国際会議が,新型コロナ感染症問題でキャンセルになり,そのための旅費が使用されなかったため.本年度に,備品購入と旅費で使用予定.
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