2019 Fiscal Year Research-status Report
低温高密度領域における2カラーQCDの相図と超流動性の解明
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19K03875
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊藤 悦子 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター(日吉), 特任講師(有期)(研究)(非常勤) (50432464)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | QCD相図 / 格子シミュレーション / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実績は以下である。 (1)2カラーQCDの有限密度系を格子シミュレーションを用いて調べ、QCD の有限密度下における定性的な知見を得た。本研究では近似を使わない第一原理計算を用いて相図の決定と各相における物理量の計算を行い、相転移現象や各相の性質を解明した。特にこれまで研究が困難であった「低温高密度領域」を中心に調べた。具体的にはゼロ密度の時の相転移温度(Tc)より低温の2つの温度を取り、それぞれの温度においてクォーク化学ポテンシャルを変化させて行った時の相構造を調べた。すると、非常に低温(T=0.45Tc)では、ハドロン相⇒BEC相⇒BCS相と相転移していくのに対し、相転移温度付近(T=0.89Tc)では、ハドロン相⇒QGP相の相転移しか起こらないことがわかった。 (2)超低温(T=0.45Tc)の高密度領域に現れるダイクォーク同士が重なり合った BCS 相においてさえ非自明なインスタントン配位(トポロジカルな構造をもったグルオンの配位)が生成されるという新規な性質を確認した。これはグルオンの性質なので3カラーの現実のQCDの高密度領域にも起こるのではないかと考えられる。さらに、ハドロン相中にも有限密度の物質状態が存在することを発見した。 (3)QCD真空は正則化の方法によって弱結合領域にも分数のトポロジカル電荷を持つ配位が存在することも格子シミュレーションによって示した。特に今年度はこのインスタントン配位が状態方程式の解になっていることを数値的に示した。 (4)QCDのトイ模型である1+1次元の非線形シグマ模型の格子シミュレーションも行い、その相構造やlarge-N極限での物理に対して非摂動的に計算した熱力学量からの知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、本論文2本、査読付きの国際会議のプロシーディングスも2本出版することが出来たので、順調に進展していると考えられる。 研究内容としては、年度内の目標であった相図の決定を終えることが出来たが、温度スケールを決めるためのスケール設定に関してはまだシミュレーションデータを取りまとめ中である。 一方で、当初の計画には入っていなかった弱結合領域のQCDにおけるトポロジーの研究や、QCDのトイ模型である非線形シグマ模型の相図の研究を進めることが出来た。 そのため、総合的に考えて概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、現在データを纏めているスケール設定に関しての論文を出版する。 その後は、ハドロン相⇒BEC相⇒BCS相と相転移していく温度領域において、ハドロンの質量とハドロン間相互作用の密度依存性について調べていく。2019年度中にそのための大きな格子サイズのシミュレーションを開始しているため、2020年度中に予備的な結果を得て、2021年度には統計数をあげた結果を示す。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの影響で、年度末に予定していた国内出張が取り消しになったため、次年度使用額が生じた。2020年度以降の出張旅費に使用する予定である。
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Research Products
(17 results)