2020 Fiscal Year Research-status Report
格子QCDによるバリオン間相互作用の精密決定手法の研究
Project/Area Number |
19K03879
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
土井 琢身 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 専任研究員 (70622554)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バリオン間力 / ハドロン間相互作用 / ダイバリオン / 格子QCD |
Outline of Annual Research Achievements |
格子QCDによるバリオン間相互作用の第一原理的決定は、原子核物理における最重要課題の一つであり、重力波観測を通した高密度核物質の性質の解明にも必要不可欠である。本研究では、新スパコン「富岳」の時代をにらみ、バリオン間相互作用の精密計算手法の開発を目指している。本年度は主に以下のような研究を行った。 1. チャームクォークのみからなるダイバリオン系、Omega(ccc)-Omega(ccc) について、バリオン間力の格子QCD計算を行った。物理的クォーク質量近傍での大規模計算により、この系には強い引力が働き、強い相互作用の結果としては束縛すること、またクーロン斥力の効果も含めると非束縛となるが、ほぼユニタリ極限に位置することを明らかにした。 2. 相互作用計算において all-to-all 伝搬関数を用いる手法について研究を行った。従来は計算コストが大きく難しかったが、本研究で LapH 法を改善することにより、計算コストを劇的に削減できることを発見した。これにより、バリオン間力計算における主要な系統誤差である非弾性散乱状態の混合の抑制が可能になると期待され、またP波相互作用の計算にも有用である。さらに、LapH 法を用いない all-to-all 法の研究もすすめ、従来計算が難しかったクォーク対生成消滅ダイアグラムを持つ系への適用を行った。特に、I=1 pipi 相互作用から rho meson 共鳴状態が導出可能なことを示した。 3. 富岳の稼働開始に向けて、バリオン間力計算のコード最適化を行い、約10倍の計算効率化を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来計算困難だった all-to-all 法について、計算コストを劇的に削減させる手法の開発に成功した。典型的な場合では計算コストは二桁も小さくなり、非常に大きな成果である。また、ハドロン間力計算についてチャームクォークが入った系への拡張を行い、ユニタリ極限近傍のダイバリオン系を新たに予言した。富岳での計算に向けた準備も進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
all-to-all 法を用いた計算について、計算コスト削減可能な理論手法の開発成功を受けて、次のステップとしては大規模数値計算を進める。特に、all-to-all 法によって実際に非弾性散乱状態の混合を抑制できるか、P波相互作用の決定を現実的精度で達成できるかは、数値計算によって確かめる必要があり、まずは重いクォーク質量領域において計算を行う予定である。 さらに、物理点近傍において様々なハドロン間力の計算や解析を進めると共に、得られたポテンシャルを基にした、ハイパー核、原子核衝突実験におけるハドロン相関、核物質の状態方程式・中性子星の構造などへの応用研究を行う。 また、新スパコン「富岳」がついに稼働を開始したため、その大規模利用を行う。特に、物理点直上での配位生成計算をスタートさせる予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した主な理由は、コロナ問題のためほとんどの研究会がオンラインになったためである。来年度以降も先が見通せない状況にあるが、適宜スパコン資源購入や解析サーバ購入などを行う予定である。
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