2020 Fiscal Year Research-status Report
Detector development for uncovering mysteries in neutron spectra through next-generation electron-hadron collisions
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19K03886
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
山崎 祐司 神戸大学, 理学研究科, 教授 (00311126)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 電子・陽子散乱 / 電子・原子核散乱 / 電子・重イオン散乱 / ゼロ度 / 中性子生成 / カロリメーター / 放射線耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は,過去に測定された高エネルギー散乱で生成する超前方中性子の運動量分布が測定により異なることを動機とした,次世代の電子・陽子衝突型加速器実験(米国EICおよび欧州LHeC)で中性子の精密測定を行うための基礎技術の開発である。大きな放射線損傷が予想されるため,その放射線量の推定,損傷に強い検出器の開発,またそもそも加速器付近に検出器が設置できるよう働きかけることが研究の柱である。 LHeC実験は,検出器全体の概念設計書(2013年)のアップデートを今年度にまとめたが,そのうちゼロ度カロリメーター(ZDC)の概念設計を担当した。これはarXivに提出され,論文投稿された。また,これらZDCを含むLHeC検出器全体の概念設計書アップデートについて,国際学会で発表した。 EIC実験でのZDC検出器については,加速器運転に伴う中性子による放射線損傷を具体的に評価した。以前LHCf (7TeV陽子・陽子散乱)による見積もりの結果を流用した簡単な見積もりでは,放射線損傷は非常に大きく,プラスチックシンチレーターでは長期間の運転に耐えられないと考えられていた。しかし,EICでの陽子のエネルギー275GeVでの実効シミュレーションを行ったところ,放射線損傷は最大で1年あたり 10kJ/kg のオーダーであること,またその範囲が中央の20センチ角程度に限られ,外側では急速に低下することがわかり,設計の自由度が広がった。一方で物理的要請から,ZDCで低エネルギー光子 (300MeV) を測定するために,電磁カロリメーター領域では全吸収型の結晶が求められることになった。これは中性子の測定にとってはエネルギー分解能の悪化につながる。今年度の最後には,この分解能の悪化を補い高精度のエネルギー測定を行うための時間検出器を組み込むことを着想し,ZDCの概念設計を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LHeC実験での検出器については,前年度に検出器の設置位置が決まり,それを含めた検出器全体の概念設計書(2013年)のアップデートを今年度にまとめ,全体の設計アップデート文書に加え,arXiv(2007.14491)に提出した。また,これら検出器全体の概念設計アップデートについて,国際学会で発表した。また,また,LHeC実験の衝突点として予定されているLHC IP2実験ホールで現在実験を行っているALICE実験と合同で新検出器を建設する計画が今年度には持ち上がった。これを踏まえて,両者の測定器要求に合う検出器の基礎設計チームに参加を始めた。 一方の EIC ではZDCにおける放射線量の具体的算定を行った。前方に発生する中性子は横方向の運動量分布が衝突エネルギーによらずほぼ不変であることが知られている。EICでの陽子のエネルギーが275GeVが最大であり,LHCの約1/30であることから,中性子の横方向の角度の広がりが大きく,ZDC上ではLHCの1000倍近くに拡散する。このことを用いて実際にシミュレーションを行ってみると,検出器単位体積あたりの放射線エネルギー損失も,予定していたプラスチックシンチレーターでは厳しいが,多くの既存の検出器(新世代結晶,シリコン検出器など)によるカロリメーターで対応できるレベルであることがわかった。 一方,物理的要請である低エネルギー光子を測定するために,電磁カロリメーターの前半部には結晶シンチレーターを用いることがすでに決まっている。これは中性子などのハドロンの測定に対しては,いわゆるe/h比が大きく不利である。これに対応するために,ハドロンシャワーが衝突点から35mのZDCに到達する時間を用いた中性子の速度から運動量を求めることを着想した。概算では20GeV以下ではカロリメーター測定より有利であることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
LHeCには,その実現に向けて様々なアイデアが求められている。なかでも,LHCでの電子・陽子散乱実験の物理的意義を強化することが非常に重要である。このため,LHeCでの2光子衝突過程によるTeV領域での電磁相互作用がどこまで他実験に対して有利かの評価を進める。また衝突点として予定されている LHC IP2 実験ホールで現在実験を行っている ALICE 実験と合同で新検出器を建設する計画についても,合同検出器の設計に関与していく。このように,LHeC実験に関しては,実験そのものの意義を向上させる研究を行う。 EICでのZDCによる中性子・光子検出については,放射線量が多いと見積もられた電磁カロリメーターエリアで結晶を用いなければならないが,そのエリアの外側では放射線量が少ないため,現行のプラスチックシンチレーターで対応できる。よって,予定していたプラスチックシンチレーターの放射線耐性の測定は行わず,精密時間測定によりどれだけエネルギー分解能が向上するかを実験的に確かめることとする。具体的には,結晶の前後に高時間分解能シリコン検出器LGADを設置して到達時間の測定を行う。LGADは30ps程度の時間分解能を持つことが知られているが,実際に結晶の前後に組み込んだときに,どのような時間分解能になるか,シミュレーションがそれを再現できるかを検証することを,研究の新しい柱として進める。また,放射線損傷のシミュレーションについて,実際の事象シミュレーションを用いて,これまでのシミュレーションがが正しいか検証する。共同研究を行っている理化学研究所,カンザス大学,Old Dominion 大学と共同で進める。
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Causes of Carryover |
放射線線量シミュレーションの結果が出るのが遅れ,またその結果が予想より少ない線量であることが今年度の後半にわかった。また,同じく今年度後半になって,物理的要請から電磁カロリメーター部を結晶シンチレーターにすることがEIC計画全体として方向性として位置づけられ,この2点がほぼ同時に起こったことで,予定していたプラスチックシンチレーターの放射線耐性試験はカロリメーターの性能を発揮するうえで重要でなくなった。一方で,カロリメーターの分解能向上のためには時間分解能の向上が必要であることを今年度末に着想した。その方策を練ったうえで研究を進めることが適切と判断し,備品購入を計画を練ったうえで次年度前半に行うこととした。経費は,時間分解能の高いシリコン検出器,その電源,プリアンプ,その測定をデジタル化するデジタイザ,データ取得のコンピューターに用いる。
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