2020 Fiscal Year Research-status Report
アコースティックエミッションを利用した大面積宇宙ダストセンサーの高機能化
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19K03889
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Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
小林 正規 千葉工業大学, 惑星探査研究センター, 主席研究員 (70312080)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 衝突貫通 / 角度依存性 / 超高速衝突 / 衝突励起による波動 / アコースティックエミッション / 圧電性PZT |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度に引き続き、衝突角度測定と質量・速度分離測定の方法を検証するための実験と考察を行った。 【衝突角度測定】前年度の実験では銃デブリによってフィルムが傷ついたことが波動の伝播に影響した可能性があり、フィルムに対して衝突体を斜めに衝突貫通させた時のAE(アコースティックエミッション)波動の異方性を調べる実験の追試を行った。本年度もJAXAの衝突銃を使った実験で、衝突体に使ったφ0.55mmのガラス球の孔以外には傷もつかず投稿論文に載せられるレベルのデータを取得できたが、やはりAE波動の異方性を確認できなかった。この実験の結果から(1)斜め衝突による波動の異方性は極めて小さい、(2)同じサイズの衝突体でも得られる信号の大きさ(フィルムに移行した運動量)が衝突角度による貫通距離に依存することが分かった。この実験を通じて、(3)PZTを貼り付けたフィルム中の波動の挙動(反射、散乱、減衰など)を副次的な知見として得ることができた。今後、衝突体がフィルムを貫通しない場合の角度依存性を調べるためにφ10μm(貫通しないサイズ)の衝突体の単発ショット実験の準備を行った。 【質量・速度分離測定】提案している方法は、衝突体がフィルム貫通時にフィルムへ移行する運動量Δpを求める実験式(先行研究)に基づいていて、まずφ1mm以下のサイズの衝突体でその実験式が成立していることを検証することを本年度までの目標とした。結果として「衝突角度の測定」で得られた(3)の知見によってセンサー感度を、静電加速器を使った実験で測定することができ、その感度を衝突銃実験の結果に適用してΔpの絶対値を求めることにした。プレアンプのゲイン補正や超高速衝突での衝突プラズマ噴出などを考慮する必要があるが、それらを整理した上で学会報告することを予定している。また、感度の絶対値測定の結果については投稿論文を執筆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はコロナ禍のためJAXA宇宙研の超高速衝突施設の衝突銃のマシンタイムが予定していた4回から3回(3日間×3回)に減ったものの、そのうち4日間を本研究に割り当てて研究に取り組んだ。 【衝突角度の測定】本年度実施した実験は前年度と同じ内容だっが、実験のセットアップ(主にチャンバー内の配線など)を改善して前年度よりも衝突角度を大きく(最大45度から最大60度)することができた。前年度の実験で実験そのものの予備的な知見を得ることができていたので、実験自体はスムーズに実施することができて投稿論文に供することができるデータを取得することができた。今後、貫通しない衝突体による衝突角度依存性を調べる予定で、その予備実験も本年度することができたので、次年度の本実験に向けて十分な準備ができたと考えている。この目標については概ね計画通りに進んでいると考えている。 【質量と速度の分離測定】のための実験では、前年度から取り組んでいた実験やコロナ禍のために大学の実験室内でできる実験を計画していたが、センサーが周囲からのノイズを拾ってしまい、実験そのものがうまく行かなかった。結局「研究実績の概要」で記したように静電加速器による実験でセンサー感度を求めることができたのでこれを外挿することで検討していくことにした。100kV静電加速器を使ってデータを取得したが、本来はより加速電圧の高いコロラド大学の加速器を使う予定であった。コロナ禍のために海外渡航が困難であったため、次年度以降に予定を繰り下げざるを得ない状況である。 一方、JAXA衝突銃の共同利用の公募には、最長5年間の研究期間で本目標である「質量と速度の分離測定」のテーマで採択され、次年度以降もJAXA衝突銃を利用できることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
それぞれのテーマについて、以下のように進める。 【衝突角度の測定】25μm厚のポリイミドフィルムに対して、φ10μmのガラスビーズを衝突銃で単発撃ちして衝突させて、貫通しない衝突体がフィルム中に発生させるAE波の異方性を調べる。フィルムには本年度まで行ってきた実験と同様に圧電性PZT素子を貼り付けるが、φ10μmの衝突で発生するAE波は信号が小さいのでプレアンプが必要である。8ch分のプレアンプはすでにあるので、円周を8分割した位置にPZT素子を貼り付けて、その円周内にガラスビーズを衝突させる実験を行う。ガラスビーズの単発撃ちの歩留まりが100%ではないものの、実験の方法などはすでに確立しているので決められた内容の実験を行ってデータを取得した上でデータ解析および考察を行うのみである。JAXA衝突銃の共同利用の研究テーマとして採択されていて、実験の準備としては施設も含めて整っている。 【質量と速度の分離測定】令和3年度では、2枚のフィルムセンサーを準備し、1枚目のフィルムを貫通して(Δp)、2枚目のフィルムで止まる衝突体による実験を行い(1枚目と2枚目を合わせてpとする)、Δpとpの関係から衝突体の質量と速度を分離して測定する方法を検証する。すでに単発撃ちの方法を確立しているφ10μmのガラスビーズを、厚さ7μmのポリイミドフィルムを使ったセンサーに衝突させ、1枚目のフィルムは貫通して2枚目で止まる。ただし、衝突体のサイズ(質量)や衝突速度を自由に変えることはできないので、得られる実験結果としては限られたものになる可能性があるが、フィルムを貫通した後の衝突体による2枚目フィルムへの衝突による信号を取得する実験はこれまで行っていないので貴重なものになると考えている。また、もし情勢が改善すれば本年度コロナ禍で実施できなかったコロラド大学の静電加速器実験を実施したい。
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Causes of Carryover |
本年度、実施予定だったコロラド大学での実験(別プロジェクト)に便乗して本研究課題の実験を行う予定で、研究協力者の旅費や実験準備費用を支出する予定だったが、実施できなかった。情勢が改善すれば実験を次年度実施するための費用として、使用する予定である。
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Research Products
(1 results)