2019 Fiscal Year Research-status Report
背景事象の飛躍的削減による地表でのMeVニュートリノ測定
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19K03891
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
川崎 健夫 北里大学, 理学部, 教授 (00323999)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 恭平 福井大学, 学術研究院工学系部門, 講師 (30722540)
岩田 修一 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 助教 (80791904)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 原子炉 / ニュートリノ / プラスチックシンチレータ |
Outline of Annual Research Achievements |
原子炉は人類がコントロールできる最も強力はニュートリノ(反電子ニュートリノ)源である。数MeV程度の反電子ニュートリノの検出は、その反応率の低さと雑音事象の多さのため極めて困難であり、測定は主に地下深くの実験施設で行われてきた。本研究では、雑音事象を飛躍的に削減することにより地表での測定を目指した。 これまで開発を進めてきたプラスチックシンチレータを用いた反電子ニュートリノ検出器を完成させ、商業用原子炉の付近で測定を行った。原子力発電所は保安基準が厳格になったため稼働数が限られている。また周囲での研究活動にも強い制限がかかっていた。関西電力および大飯原子力発電所の協力が得られたため、2019年5月から7月にかけて2ヶ月間の測定を行うことに成功した。研究者が常駐することができないため、リモートでモニターしながら測定を行った。また、測定は安定した環境で行うことが重要であるが、測定器を積載したトラック荷台を太陽光遮光や換気により温度を安定させた上で、電子装置の温度変化に対する応答を補正することにより、測定器性能を安定させることに成功した。 取得データを解析し、1日あたり(177.6±38.7)事象の反電子ニュートリノの観測に成功した(優位度4.5以上)。また、1-8MeVのエネルギースペクトラムを観測にも成功した。これは国内初の結果であり、世界でも数例しか報告されていない。この結果は国際会議と国内学会で発表した。またプレスリリースにより公表した。 並行して、測定器を小型かつ高効率・低雑音に改良するための基礎研究を進めた。上記測定の経験から得られた知見に基づくもので、事象の位置精度を1/10以下に改善することにより、さらに雑音事象を削減することを目指す。小型(30cm角程度)の測定セットアップと放射線源により、雑音事象の除去能力を確認しつつ設計を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な目的である、原子炉からの反電子ニュートリノの高い優位度で測定に成功し、さらに低エネルギーまでのスペクトラムの観測にも成功した。速やかに測定を行うことができたのは、原子力発電所のメンテナンススケジュールに合わせて電力会社の協力が得られたことが大きな理由であり、その急なスケジュールに合わせて測定器の最終調整を完了できたことも大きな成果である。また、温度環境による変化を補正し、測定器の性能を最大限に引き出すことができたこと、ニュートリノ信号数の系統誤差に最も寄与する高速中性子事象の観測事象数が予想よりも少なかったことにより、当初予想(優位度3程度)よりも高い優位度(4.5以上)で得られたことも、計画以上に研究が進展した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
原子炉での測定結果を、早急に学術論文としてまとめ投稿する。 開発した測定器(約1トン)で十分な測定と成果を得られたため、研究計画の大半は完了したといえる。今後は、残りの課題である、新しい測定器の開発に注力する。 測定を行った1トン測定器を解体し、エレクトロニクスを再利用する。モジュールは新しい測定器の外側に配置し、地面や宇宙線起因の雑音事象除去(ベトー)検出器として利用する。新しい測定器の核となる小型検出器部は、放射線源を用いて、検出光子数等の基本的な性能を確認する。シミュレーションによって、中性子検出部の設計の最適化を行い、大型化(300kg程度)した場合の反電子ニュートリノ検出効率と雑音事象の量を見積もる。特に陽電子・ガンマ線に対する不感領域をできるだけ小さくしつつ、中性子の検出効率を高めることがポイントである。
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Causes of Carryover |
シミュレーションに使用する計算機について、現有の機器が必要な性能を有しており購入を取りやめた。発電所で行った測定において、研究代表者の機関からの参加者数が増えたため、研究分担者の機関から参加する人数が減り、旅費の使用額が減ったため。
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Research Products
(5 results)