2020 Fiscal Year Research-status Report
超新星残骸X線データの新解析手法で迫る超新星親星・爆発機構の包括的研究
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19K03908
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 彩 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (70392082)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超新星残骸 / 超新星爆発 / X線天文学 / 化学進化 / 重元素組成 |
Outline of Annual Research Achievements |
星が死の際に爆発する「超新星爆発」は宇宙空間に重元素を供給し化学進化の主役を担う、宇宙の多様性の源である。また、Ia型超新星爆発は標準光源として宇宙論で広く用いられている。しかし、その爆発頻度や爆発機構は明らかではない。超新星残骸はその衝撃波が爆発噴出物を数千万度にまで温め、膨張によりドップラー偏移した特性X線を放射する。我々はドップラー偏移を利用し、爆発型を特定して宇宙化学進化の理解につなげる研究を続けている。 今年度は特に、XMM-Newton搭載高分散分光器RGSを用いたKepler超新星残骸の膨張構造特定を行った。RGSは撮像ができないため3次元構造の特定は不可能と思われていたが、我々は分散方向と垂直の構造は分離できることを活用し、爆発噴出物が非等方に膨張していること、星周物質とは違う運動をしていることを発見した。これらの結果については、国内学会で口頭発表を行っている。他方、他のサンプルでは同手法は使用できない。XRISMやAthenaといった将来衛星計画のデータでは3次元膨張構造がどの程度観測できるのか検討を始めている。また、対象を重力崩壊型超新星残骸にも広げ、より広範な超新星爆発の爆発機構について研究を進める予定である。中性子星を遺す爆発の中には、爆発エネルギーが有意に小さいかに星雲のような天体があることが示唆されている。今年度は若く回転エネルギーの大きな中性子星を観測し、X線帯域では中性子星も超新星残骸も上限値を与えた。これは、爆発エネルギーの小さな超新星残骸の新しいサンプルである可能性を示唆している。今後は中心に遺された中性子星やパルサー星雲のスペクトル・画像解析も適用する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はKepler超新星残骸の高分散分光データを用いて、爆発噴出物と星周物質を切り分けた膨張測定を行った。RGSは撮像ができないため3次元構造の特定は不可能と思われていたが、我々は分散方向と垂直の構造は分離できることを活用し、爆発噴出物が非等方に膨張していること、星周物質とは違う運動をしていることを発見した。Keplerはrunaway AGB starがprogenitorだという節があり、我々の結果はこのrunaway starの形成するbow shockと衝撃波の相互作用を考えると無矛盾である。 また我々は、重力崩壊型超新星残骸の起源解明にも着手している。我々が着目したのは、特性年齢が若い中性子星で超新星残骸が同定されていない天体群である。これらは超新星残骸の詳しい観測がないだけなのか、かに星雲で「ひとみ」衛星が検証したように爆発エネルギーが小さいのか、決着がついていない。我々は最も若く回転エネルギーも高いパルサーPSR J1208-6238をX線で観測し、パルサーと超新星残骸の上限値を与えた。この結果からこのパルサーはマグネタータイプではなくかに星雲タイプで、明るい超新星残骸が付随しない、爆発エネルギーの小さなタイプの可能性が示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
若い超新星残骸ではX線詳細画像・スペクトル複合解析で膨張の非等方性を明らかにできることが分かってきた。一方、これらの手法は大統計が必須であることも分かってきた。そこで、2022年度打ち上げ予定のXRISM衛星の超高エネルギー分解能、さらに2030年代打ち上げ予定のAthena衛星の大統計超高エネルギー分解能と同手法を組み合わせた解析の検討を行う。さらに今後は、本手法をあてはめるサンプルを大質量星崩壊型超新星残骸にも広げ、より広範な超新星の爆発機構の多様性を検討する。また、大質量星崩壊型超新星爆発の中で爆発エネルギーが有意に小さなものがあることが示唆されている。これについても様々な中性子星やパルサー星雲をもつ超新星残骸について系統的に調べ、爆発エネルギー・等方性の系統解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度はコロナ禍により、招待講演を予定していた国際研究会が延期になった。他の国際学会もほぼオンライン開催になり、海外渡航費を使用しなかった。来年度以降は国際学会も対面に戻っていくものと思われ、予定していた招待講演を行うため海外渡航費として使用する予定である。
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Research Products
(16 results)