2019 Fiscal Year Research-status Report
Construction of a spectral library using the near-infrared high-resolution spectrograph WINERED
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19K03917
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鮫島 寛明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (10748875)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 近赤外線高分散分光 / 恒星 / スペクトルライブラリー / WINERED |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、圧倒的な感度を備えた近赤外線高分散分光器WINEREDをチリ共和国のラスカンパナス天文台にあるマゼラン望遠鏡に設置し、恒星をはじめとする様々な天体の高品質なスペクトルを取得してライブラリーとして公開することである。はじめにWINEREDをそれまで設置されていたラ・シヤ天文台から 50 km ほど離れたラスカンパナス天文台へ輸送する作業に取り組んだが、諸般の事情により当初は予定していなかった日本への輸送と改修作業を行い、その後ラスカンパナス天文台へ輸送するという手順を踏んだ。このため、WINEREDがラスカンパナス天文台に到着したのは2020年3月となった。さらにマゼラン望遠鏡に設置する作業に着手しようとしたところで、新型コロナウイルスによる混乱により作業の中断を余儀なくされた。結果として、2019年度は新たな観測を行うことができなかった。 このような理由で観測ができなかったため、代わりに過去にWINEREDで取得したデータの解析を行った。特に集中して取り組んだのが、ラ・シヤ天文台にWINEREDが搭載されていた頃に取得した赤方偏移2.7のクェーサー6天体の解析である。近赤外線では大気吸収の影響で輝線強度の測定が困難になるが、WINEREDの高い波長分解能を活かして吸収線を分解し補正することで、輝線強度の正確な測定、さらには組成比の推定を達成できた。結果は日本天文学会2020年春季年会で発表した他、間もなく査読付き論文誌に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ラスカンパナス天文台へのWINEREDの移設作業に関して、予定より遅れが生じている。当初の予定では、それまでWINEREDが設置されていたラ・シヤ天文台から 50 km ほど離れたラスカンパナス天文台への輸送は2019年3月に終了すると見込んでいたが、諸般の事情によりWINEREDを一度日本に輸送して改修を行い、再びチリへと輸送する必要が生じた。最終的にラスカンパナス天文台へのWINEREDの輸送は2020年3月に達成できたが、望遠鏡への設置作業は新型コロナウイルスによる混乱により現在も実施できていない。結果的に2019年度は新規観測を行わず、過去に取得した観測データの解析を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
マゼラン望遠鏡での観測が開始するまでは、過去にWINEREDで取得されたデータの解析を中心に進める。2018年にA型星の観測とそこから得られたラインリストをまとめた論文を執筆した(Sameshima et al., 2018, ApJS, 239, 19)が、同様の手法で他のスペクトル型の恒星や輝線天体の解析を行う。具体的には、過去にWINEREDでクオリティの高いスペクトルを取得しているOB型星の解析を進める。最近の研究から、高分散で観測するとOB型星のスペクトルには線幅の細い輝線が見られることが新たに分かってきており(例えば Sadakane et al., 2017, PASJ, 69, 48)、WINEREDスペクトルでもそのような輝線が見られるか検証を行う。輝線が見られる場合はどの元素によるものか同定作業を行うが、吸収線と異なり輝線は放射ガスの運動により波長が変化する上、放射機構が複雑でスペクトルのシミュレーションが恒星大気ほどの精度は達成できていない。そこで他の輝線天体の観測スペクトルとの比較が重要になる。代表的な輝線天体である共生星は輝線リスト作成に適した天体の一つと言え、過去にWINEREDで複数の共生星について高クオリティのスペクトルを取得している。そこで共生星の解析に取り組み、輝線の同定とラインリスト作成を行い、またOB型星スペクトルとの比較検証を行う。 コロナウィルスによる混乱が落ち着けば、2020年後半にはマゼラン望遠鏡での観測を行う予定である。マゼラン望遠鏡でのWINEREDの観測夜数は決まっており、それを関係研究者で分ける形になっているため、検討会を行うなどして観測夜数を決定し、それに基づいて観測候補天体の選別を行う。なおマゼラン望遠鏡での観測は、実際に現地に赴いて観測を主導する予定である。
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Causes of Carryover |
当初は2019年3月にWINEREDのラスカンパナス天文台への移設が終了し、2019年夏頃に現地での観測を予定していたため、チリへの旅費を計上していた。ところが諸般の事情によりWINEREDの移設は大幅に遅れ、ラスカンパナス天文台への移設が完了したのは2020年3月となった。このため、2019年度はチリへ出張することなく終了した。予定がずれて2020年後半に現地チリに赴いて観測を行う予定であり、そのための旅費を繰り越した。
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Research Products
(5 results)