2020 Fiscal Year Research-status Report
動的恒星系渦状腕が駆動する星間媒質の相転移過程における磁場の役割
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19K03929
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
岩崎 一成 国立天文台, 天文シミュレーションプロジェクト, 助教 (50750379)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 分子雲 / 星形成 / 重力多体系 / 銀河渦状腕 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以下の2つの研究を主におこなった。 [研究1] 銀河の恒星系渦状腕の考慮した大域シミュレーションをおこなうため、公開コードAthena++に超新星爆発フィードバックと、既存の粒子モジュールを基に重力多体系を実装した。超新星爆発フィードバックの実装は順調に完了した。重力多体系の実装法はまず広がりを持たせた粒子の質量を格子に割り当て、格子上で重力ポテンシャルを求め、その結果得られた重力を粒子の位置へ内挿するというものである(PM法と呼ばれる)。まず一様格子を張った場合には、各種テスト計算を通して正しく重力多体系計算ができていることが確認できた。しかし、大域シミュレーションで用いる予定の静的格子分割法を使った場合、異なる大きさの格子構造を整合的に考慮して重力場を計算しているがために、粒子自身が作る重力場が非等方となり、本来は働くべきではない自己力が働くことが判明した。これは格子が一様でないことによって生じる根源的な問題であり、取り除くことが非常に困難である。対処方法は「今後の研究の推進方策」で述べる。 [研究2] 私は局所スケールでの分子雲形成シミュレーションの高解像度磁気流体計算をおこない、星形成の初期条件となる高密度な雲の塊(クランプ)の統計的性質を調査した。前年度に明らかにした形成されるクランプの統計的性質を記述する解析的モデルの構築に成功し、高解像計算を追加でおこなった結果、他のパラメータでも成り立つことがわかった。具体的な統計的性質としては、高密度クランプは成長の過程で、いつも重力エネルギーの絶対値が磁気エネルギーよりも少し大きい状態へ漸近することが挙げられる。この結果は観測されている分子雲コアの統計的性質と合致する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」で述べた通り、局所分子雲形成の研究は順調に進んでいるが、本研究の恒星系重力を考慮した腕状腕が駆動する分子雲形成の研究がやや遅れている。その原因は、格子分割法の基でのPM法では、自己力が働くという根源的な問題があり、Athena++への重力多体系の実装が完了できなかったためである。したがって、総合的にみて「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
多くの計算コードでは、異なる大きさの格子間での重力ポテンシャル場の整合性を捨てて対処しているが、この方法は対処療法であり、また自己力は完全には消えず、しかも物理的ではないので本研究では採用しない。この問題へ対処する方法として以下の2つが考えられる。(方法1) 大スケールの重力場は自己力の生じない一様格子上で解き、小スケールの重力場は粒子間重力をツリー法を用いて解く方法である。(方法2) 恒星系の進化をガスを考慮せずに重力多体系として別に解き、得られた重力場の時間変化をテーブルにして、外場として大域分子雲形成シミュレーションに考慮する方法である。 方法1.は、確実に重力場が計算できる反面、Athena++に大きな変更が必要となり、エフォートを考えると実装に一年程度かかると予想される。一方、方法2.は、簡単な反面、恒星系とガスの相互作用を無視してしまう。しかし、恒星系質量はガス質量よりも平均的には十分大きく、第一段階の近似としては有効である。したがって、今後は方法2.にそって、時間変化する銀河渦状腕重力を考慮した銀河大域シミュレーションを実行し、定常渦状腕の場合と比較する。
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Causes of Carryover |
今年度の予算の多くは旅費で支出する予定であったが、COVID-19感染拡大の影響で支出できなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度はコード開発環境を整えるためインテルコンパイラ(20万)を、シミュレーションデータ保存のためハードディスク(40万円)を、ノートパソコン(30万円)を購入する予定である。次年度に出張できる状況になれば、適宜旅費を支出する。
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Research Products
(6 results)