2020 Fiscal Year Research-status Report
A study on the early history of star and binary formation and the Galaxy formation through the analysis of carbon-enhanced, metal-poor stars in the Galactic halo
Project/Area Number |
19K03931
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤本 正行 北海道大学, 理学研究院, 名誉教授 (00111708)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 宇宙初代星 / 恒星進化 / 漸近巨星分枝 / 星・連星系形成 / 元素の起源 / 銀河系形成史 / 元素合成過程 / 星風・質量放出 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近年の大規模な探査、すばる等の大型望遠鏡の高分散分光観測でその全貌が明らかにされてきた銀河系(MW)ハローの金属欠乏星を対象として、その組成分布、進化の特性を解明、それらを誕生させた星・連星系の形成史を解読し、それを通して、低金属量の環境の下での星・連星系の形成機構及び進化過程を明らかにし、銀河系の形成、初期進化の研究に寄与することである。 これまで、ハローの恒星が炭素過多を示し、また、s-過程元素の過剰を示すものが多いことから、宇宙初期に於けるAGB星の進化、中性子捕獲元素合成過程の特異性を解明してきた。とりわけ、後者については、本年度は、太陽系で観測されるものと異なる高中性子密度下で新しい側面の理解を進め、元素合成の理論の新たな展開を導くことができた。 これに基づいて、これまで、懸案であった、宇宙初期に於ける星形成、とりわけ、現在まで生き残っている低質量星、および、それを含む連星系形成について、新たなシナリオを提起した。これらは、銀河系とりわけハローの形成、進化過程の研究に新たな手掛かりを与えるものである。 本研究の基礎は、ハロー星で観測される炭素、中性子捕獲元素の起源である、漸近巨星分枝(AGB)星の進化の解明である。昨年度から、鹿児島大学の観測のグループと共同でAGB星の研究を進めている。これは、AGB 星の最後を進化段階に当たるミラ型変光星について、彼らのグループが考案した距離指標を適用して、銀河系のミラ型変光星の周期-光度関係、周期分布を求め、これまで多くのグループによって研究されてきた大小マゼラン雲(LMC, SMC)と比較を通して、AGB 星の進化、その金属依存性を調べようとするものである。これまで、炭素星の形成、質量放出機構について新たな知見を得ている。これは、宇宙初期における金属欠乏星の進化の研究に新局面を開くとものと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
漸近巨星分枝星の進化とその内部での中性子捕獲核種合成過程、とりわけ、金属欠乏下での特性の解明は本研究の基礎となるものであるが、それとともに、現在の恒星進化の理論に新しい展開をもたらすと考えられる。 本研究では、金属欠乏星におけるs-過程元素合成過程の研究で、中性子捕獲核種合成過程について従来の理論とは異なる新たな側面を明らかにすることができた。これまで、中性子捕獲は、s-過程とr-過程に2つに分類されてきたが、銀河系ハローの恒星から、EuとBaの比がこの2つの過程の値の中間の値を持つものが発見され、これに対応して、低密度の中性子密度で起きるs-過程と高密度で起きるr-過程の中間の中性子密度を持つi-過程が提唱された。私は、金属欠乏星での中性子捕獲過程の研究を通して、Eu/Ba比を決める機構を解明し、このi-過程の特性を明らかにした。中性子捕獲過程としては、s-過程と変わらないが、Eu/Ba比の違いは、中性子密度の違いではなく、原子核の性質、偶数核と奇数核、特に魔法中性子数の原子核の中性子捕獲断面積の配列と、β崩壊の終点となるshielding 核種の存在によることを示した。これは、元素の理論にあらたな知見を付け加えるであろう。 現行の恒星進の理論の課題としては、恒星からの質量放出が問題として残っている。AGB 星については、光度は高いが表面温度が低くため、ダスト駆動が提唱されてきたが、必ずしも、観測と整合的な理論は導かれていない。本研究では、観測のグループとの共同で、ミラ型星の周期分布から、AGB 星の最後が、金属量とか表面の化学組成に依らず、脈動の周期で決まっていることを示した。これは、AGB 星からの質量放出機構として、外層の化学組成に依らない構造で決まる、脈動あるいは動的不安定による駆動を示唆、質量放出機構の研究であらたな光を与えるものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、3つの課題についての研究を進めていく。課題としては、①、超親族欠乏星での中性子捕獲合成過程、とりわけ、s-過程とi-過程の関係研究、それをもとに、元素の起源、銀河系の化学進化との関連を解明する、②、銀河系ハローの低質量星の特異な表面組成の分析を通して、初期宇宙における星・連星系の形成過程、とりわけ、現在まで生き残る低質量星の形成過程の解明を手掛かりに、初期宇宙の低金属用の時代の星・連星系形成過程、銀河系形成・進化の研究を進める、③、観測グループとのミラ型変光星によるAGB星の進化の研究を継続・発展させ、AGB 星の進化の理論的研究、とりわけ、質量放出機構の新たな理論の構築を目指す。 特に、課題③ について、質量放出機構は、現在の恒星進化に残された理論的な中心的な課題である。質量放出は、殆どの恒星で観測されているが、観測からは、大質量星と漸近巨星分枝星では、質量放出率が大きく、進化に決定的な影響すると考えられている。ともに高光度で Eddingtonの限界光度に近いため、輻射圧による駆動が提唱されている。大質量星は、表面温度が高く、高エネルギーの原子吸収線による加速機構が有効とされている。AGB 星についても、塵による連続光の吸収の加速機構と考えられている。しかし、低温度でphotonの運動量が小さいにも関わらず、大質量星に比べると、光度の割に質量放出率が桁違いに大きく、これは、異なる質量放出の加速機構を示唆している。本研究では、観測グループとの研究の成果を踏まえて、脈動と重力不安定による漸近巨星分枝星の質量機構の理論的研究に取り組む。特に、表面の加速機構だけではなく、大質量星と漸近巨星分枝星の内部構造の違いを考慮して、恒星の構造、進化の立場からとの理論を発展させるものである。
|
Causes of Carryover |
学会、研究協力等の旅費に予定したものが、学会の中止で未使用になったため、繰り越すことになった。未使用分は次年度において研究協力等の旅費および文献購入等に執行する予定である。
|
Research Products
(6 results)