2020 Fiscal Year Research-status Report
PCクラスタを用いた光度と位相変化に伴う中性子星のサイクロトロン線の研究
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19K03934
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Research Institution | Nagano National College of Technology |
Principal Investigator |
西村 治 長野工業高等専門学校, 電子情報工学科, 教授 (10259864)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | サイクロトロン共鳴 / 中性子星 / 磁場 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙において最も強い磁場を持つ天体が中性子星であり,その磁場強度を直接測定できる唯一の方法がサイクロトロン吸収線(以下,吸収線)のエネルギーである.この吸収線のエネルギーが光度変化によって変化するモデルの構築を行い,シミュレーションを行った.令和2年度では,比較的低い光度で起こる光度が上がるとともに吸収線のエネルギーも増加する現象について計算を行った.観測では,明確にエネルギーが増加する天体がある一方で,ほとんど変化のない天体や一旦エネルギーが減少する天体もあり,どのような原因で天体によって異なった振る舞いをするのかについて,まだ統一して説明できる理論的なモデルがない.そこで本研究では,連続成分の放射の異方性と重力により光の経路は曲げられる効果を考慮し,さらに輻射輸送の効果から降着円柱の壁付近では輻射圧が減少する結果,ガス運動の減速が弱くなる効果も考慮して計算を行った.従って,吸収線形成がこの壁付近の領域で主に起こることから,二次元で考えることで今まで行われてきたシミュレーション結果とは異なる結果を得ることができた. 令和2年度では,連続成分の放射の異方性と重力により光の経路は曲げられる効果から2つの基本波の吸収線構造が作られる場合があることがわかった.ただし,エネルギーの低い側に現れる基本波の吸収線は非常に浅いことが多く,観測では確認できない可能性がありそうである.その結果,2つの基本波が見える場合と見えない場合で吸収線のエネルギーの変化が異なった性質を示すことから,振る舞いの異なる天体が現れることが理論的シミュレーションにより示すことができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の令和2年度の目標としては,中性子星の2つの磁極のpole1とpole2を考慮し,重力により光の経路が曲げられる効果を計算して、2つの磁極からの放射の混合を計算することであった.特に,それぞれからの放射の強さが同程度である場合は,2つの磁極からの重ね合わせの効果は大きくなり、最終的な吸収線はより複雑な構造を持つことが予想される.そこで,令和2年度では,昨年度開発した並列計算コードを用いて,モンテカルロ法により,連続成分の放射の異方性と重力により光が曲がる効果を取り入れて,Intel Xeon20コア40スレッドをデュアルで搭載したワークステーションのクラスターコンピュータにより,並列計算を行うことであった.しかしながら,コロナの影響があり,研究の実施や研究発表には多くの影響が出て,予定通りには実施することができなかった.その中で,1つのワークステーションによる並列計算を実施し,比較的低い光度の天体で起こる光度が上がるとともに吸収線のエネルギーも増加する現象にのみ焦点をあてて,計算を行った.その結果,低い光度の場合の観測結果を上手く説明できるモデルを構築することができ,シミュレーションにより「何故,光度が上がるとともに吸収線のエネルギーが増加する天体や変化がない天体が存在するか」を説明することに成功した.この結果については,論文としてまとめて投稿中であり,また,今後,学会などでの発表をする予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度の研究では,光度が比較的低い天体について,計算を行った.今後は令和2年度に構築したモデルを発展させて,光度が高い場合の天体に応用する.光度が高い天体では,光度が比較的低い天体とは逆に,光度が上がるとともに吸収線のエネルギーは減少することがいくつかの天体で観測されている.しかし,何故そのような振る舞いをするのかについて統一的に説明できる理論はまだ確立されていない.そこで今後は,令和2年度に比較的低い光度での観測結果の説明に成功したモデルを光度が高い場合にも応用できるように改良し,シミュレーションを行うことで,光度が高い天体での吸収線の変化を計算する. また,特に光度が高い場合では,一回転の中の位相ごとのスペクトルの解析も多く行われている.今後の研究では,位相ごとの吸収線構造を詳細に調べるために,重力により光が曲がる効果を考慮したコードを用いることによって,2つの磁極からの放射の重ね合わせを角度依存性も考慮して輻射輸送問題を解く.これにより,位相ごとのスペクトルの特徴を正確に計算する.観測では,4つの位相ごとのスペクトルが解析されている場合が多い.この角度依存性を詳細に調べるためには,計算する光子数を4倍程度にして計算する必要がある.この数の光子数と重力により光が曲がる効果を考慮して計算するために16コア32スレッドを搭載したワークステーションを追加購入し,PCクラスタを構成することにより,1コアCPUよりも100倍近い計算速度で計算を実行することで,位相ごとの吸収線構造を計算する予定である.
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Causes of Carryover |
コロナウィルスの影響により,出張が制限され,研究発表や研究実施を計画通り行うことができなかったため.
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