2019 Fiscal Year Research-status Report
小惑星ベスタの形成初期における大規模衝突破壊の年代学的検証
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19K03946
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
羽場 麻希子 東京工業大学, 理学院, 助教 (30598438)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 小惑星ベスタ / ユークライト / 隕石ジルコン / 年代測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は小惑星ベスタ起源隕石に存在するジルコンの高精度U-Pb年代測定法の開発を行った。ベスタ起源隕石の中でも地殻最上部を構成していた玄武岩質ユークライトには少量ではあるがジルコンが存在することが知られている。これらのジルコンは地殻の形成年代や再加熱イベントの年代を決定する上で非常に重要であるが、その粒径が直径20 μm以下と小さいため、二次イオン質量分析計を用いた年代測定が独占的に行われてきた。しかし、この手法による年代測定では、原始小惑星の初期進化に対して年代分解能が低いため、個々の地質イベントを分解し理解することは困難であった。このような背景を踏まえ、本研究では玄武岩質ユークライト中に存在する20 μm以下のジルコンに対して、表面電離型質量分析計を用いた高精度U-Pb年代測定法の開発を行った。 本手法では、ジルコン粒子を隕石試料から分離し、個々のジルコンの年代測定を行うことを目的とする。そこでまず隕石試料からジルコン粒子を効率的に分離するため、ジルコン以外の鉱物をフッ酸と硝酸の混酸で溶解し、ジルコンを回収した。回収したジルコンを高温高圧酸分解容器で溶解し、U-Pb年代測定を行った。得られたU-Pbデータは明らかにコンコーディア曲線から外れ、207Pb-206Pb年代も大きくばらつく結果となった。この結果は、ジルコンを隕石試料から分離するために行った酸処理がジルコンのU-Pb系を乱した結果と考えられる。そこで、酸処理を行う前に、ジルコンの結晶度を回復するため、900℃、48時間でannealingを行った。その結果、これらの処理を施したジルコンではU-Pbデータはディスコ―ディア直線上にプロットされ、その207Pb-206Pb年代は4552.58±0.69 Maに収束することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、小惑星ベスタ起源の隕石の高精度・高確度な年代測定を行い、原始小惑星の初期進化および天体衝突に関する知見を得ることを目的としている。この研究課題の核となるのが、小惑星ベスタ起源隕石中に存在している微小鉱物ジルコンの高精度U-Pb年代測定法の確立である。これまでにベスタに由来する玄武岩質ユークライト中のジルコンのU-Pb年代は数多くの研究で行われているが、その大部分が二次イオン質量分析法による年代測定であった。この手法で得られる年代は1000万年以上の誤差を伴うため、ジルコンの年代が対応する母天体上の地質イベントを特定することは困難であった。この問題を解決するため、本年度は、隕石ジルコンのPb-Pb年代に伴う誤差を100万年以下にすることを目的とし、表面電離型質量分析を用いた年代測定の開発を行った。 本年度の実験の成果として、玄武岩質ユークライト中のジルコンの高精度U-Pb年代測定を行うには、試料準備の段階で(1)900℃、48時間のannealingを行い、ジルコンの結晶度を回復すること、(2)フッ酸と硝酸の混酸でジルコン内の結晶度の低い部分の除去を行うこと、が有効であることが明らかになった。その結果、本研究で用いた玄武岩質ユークライト(Camel Donga)のジルコンの207Pb-206Pb年代は4552.58±0.69 Ma(2σ)であることが示され、目標であった年代誤差100万年以下の年代測定法を開発することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、今年度確立した隕石ジルコンの高精度U-Pb年代測定法を小惑星ベスタから飛来したと考えられる各種隕石のジルコンに順次適応することを試みる。まず、小惑星ベスタの地殻の最上部を構成していた玄武岩質ユークライトに関して、出来るだけ多くの隕石試料のジルコンを分析することで、従来の年代測定法で得られた年代を高精度な年代に置き換える。これにより、小惑星ベスタの地殻の形成期間や再加熱イベントの様相をより鮮明に描き出すことが可能になる。これまでの研究では、ユークライト中のジルコンのU-Pb年代が母天体での衝突イベントでリセットするのか、またリセットされるとすればどの程度の衝突であるのか、などについてはっきりとはわかっていない。高精度な年代が得られれば、ジルコンの年代が対応する母天体のイベントに関してより厳密な考察をすることが可能になると予想される。 一方で、小惑星ベスタにおける大規模衝突や衝突後のベスタの熱史を検討するため、より低温の閉鎖温度を持つ放射壊変系(Rb-Sr系、K(Ar)-Ar系など)を利用した年代測定を行う。これらの放射年代系はベスタで大規模衝突が起こっていれば、その時点で年代がリセットし、その後存在していた場所の温度条件に従って閉鎖温度に達した時点の年代を記録すると考えられる。本研究では、複数のベスタ起源隕石の各種年代測定法を組み合わせることで、小惑星ベスタの地殻の誕生から大規模衝突、そして現在のベスタに至る進化史を議論することを試みる。
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Causes of Carryover |
当初予定していた2020年3月の講演が新型コロナウイルスの影響で中止となり、出張旅費に差額が生じたため。生じた差額は次年度に行う研究や出張のために計上する。
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