2021 Fiscal Year Research-status Report
小惑星ベスタの形成初期における大規模衝突破壊の年代学的検証
Project/Area Number |
19K03946
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
羽場 麻希子 東京工業大学, 理学院, 助教 (30598438)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 隕石ジルコン / (U-Th)/He年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は小惑星ベスタ起源隕石(HED隕石、メソシデライト)に存在するジルコンの(U-Th)/He年代の開発を行った。地球岩石に含まれるジルコンのU-Pb年代と(U-Th)/He年代を組み合わせた研究は、岩体の冷却速度の見積もりに広く利用されている。しかし、隕石ジルコンに関しては、存在が稀であることに加え、母天体上での複雑な熱史、また宇宙空間における希ガスの脱ガスの可能性から手付かずの状態である。本研究では、前年度に行ったU-Pb年代測定と同一試料を用いて(U-Th)/He年代の測定が可能であるかの検証を行った。 まず、メソシデライトに属するEstherville隕石(落下隕石)中のジルコンを用いて全希ガス同位体分析をtotal melting法とstepwise heating法によって行った。Total melting法は対象隕石中のジルコンに関する希ガス同位体組成のキャラクタリゼーションのため、stepwise heating法は隕石ジルコンからの脱ガスの温度プロファイルを得るために行った。隕石ジルコンの希ガス同位体組成からは、全ての希ガスにおいて宇宙線照射の影響が確認された。次に、隕石ジルコン中の希ガスの脱ガスのプロファイルから、Heは1000℃までの加熱で99%が脱ガスすることが確認された。このことから、隕石ジルコンの(U-Th)/He年代を得るためには、まずジルコンを1000℃で加熱してHeを分析し、その後加熱炉からジルコンを取り出し、UとThの濃度をID-ICP-MSによって同定することが有効であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の今年度の計画では、他の年代測定法(92Nb-92Zr系やK(Ar)-Ar系)の分析も行う予定であった。しかし、これらの分析は海外の研究機関の分析装置を使用することを予定していたため、新型コロナ感染拡大の影響で渡航が許されず計画通りに実施することが出来なかった。これらの分析に関しては、試料の調整を国内で行い、分析を依頼すると検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度確立した隕石ジルコンの(U-Th)/He年代を各種ベスタ起源隕石に適応し、冷却速度や衝突年代を求めることを試みる。小惑星ベスタの地殻進化を議論するために、上部地殻の最表面部を構成していたと考えられている玄武岩質ユークライトのジルコンの年代測定を行う。玄武岩質ユークライトはその化学組成によりいくつかのグループに分けられており(Main group, Nuevo-Laredo group, Stannern groupなど)、グループの化学組成は異なる形成史を反映していると考えられている。そこで、これらのグループに属するユークライト隕石のジルコンのU-Pb年代および(U-Th)He年代測定を行い、グループの形成に関する年代学的知見を得ることを試みる。 一方で、ベスタの上部地殻表層部より下方を構成していたと考えられる隕石中にはジルコンが存在しない(発見されていない)。従って、これらの隕石の年代測定をジルコンを用いて行うことはできない。そこで、上部地殻下部を構成していたと考えられる集積岩ユークライトに対し、相対年代測定法の一種である92Nb-92Zr年代測定を適用することを試みる。92Nb-92Zr年代測定は、親核種(消滅核種)である92Nbの太陽系形成時における存在度が定まっておらず、長い間実用化されていなかった。しかし、近年、Haba et al. (2021、PNAS)によって92Nb初生存在度が高精度に決定されたことにより、隕石の新しい年代測定法として利用することが可能となった。本研究では、複数の玄武岩質ユークライトおよび集積岩ユークライト対し、92Nb-92Zr年代測定法を適応することを試みる。
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Causes of Carryover |
当初予定していた海外研究機関での実験や国際学会参加が新型コロナウイルスの影響で不可能になり、出張旅費に差額が生じたため。生じた差額は次年度に行う研究や出張のために計上する。
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