2020 Fiscal Year Research-status Report
極域オゾンと中高緯度渦熱フラックスとの線形関係の理論的解明
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19K03961
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
長谷部 文雄 北海道大学, 地球環境科学研究院, 名誉教授 (00261735)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋吉 英治 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 室長 (80211697)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 極域オゾン全量 / 渦熱フラックス / 線形性 / オゾン輸送 / オゾン光化学 / アンサンブル実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
主として熱帯域で生成される成層圏オゾンは、冬季に強化される極向き大循環により輸送され、高緯度に春季極大を形成する。この過程で極域に蓄積されるオゾン量と冬季中緯度の極向き渦熱フラックスとの間には高い線形性が存在する(Weber et al, 2011)。この線形性は、春季極域オゾン量に対する化学過程の寄与が無視できるなら容易に納得できるが、オゾンホールが発達する南半球においてはオゾン輸送量に対して化学的消失量が勝ると解釈されているにも関わらず、上記の線形性が南北半球の区別を要しない統合された形で成立する根拠は明らかにされていない。本研究では、国立環境研究所で開発されてきた化学気候モデルにより得られたオゾン変動のシミュレーション結果の解析により、上記線形性に対する化学的消失過程の寄与を含めて明らかにする。 オゾンホールとして顕在化する春季極域オゾン破壊は、オゾン破壊物質(ODS)量と極渦の安定性とに支配される。後者が大気の内部変動に依存して不規則変動するのに対して前者はゆるやかに経年変動するため、上記線形性のODS量依存性は期間を分割した解析により調べられてきた。しかし、この方法では両者を完全に分離することができず、解析期間の細分化により統計的有意性が損なわれるという問題もある。本研究では、化学気候モデルの国際比較プロジェクトに参加したモデルを使って国立環境研究所が実施した、ODS濃度と温室効果ガス(GHG)濃度とを固定した510年間の連続計算結果をアンサンブル実験とみなすことにより、理想化された条件下で高い統計的有意性を担保しながら線形性の要因解析を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの蔓延に伴う移動・会合の自粛要請に伴い、研究協力者を含めた3名による対面での議論の機会を持てなかったこともあり、解析結果の議論を深めることはできていないが、ODSを1960年レベル(オゾン破壊物質の成層圏負荷量(EESC) 1.4 ppbv)に固定した実験と2000年レベル(EESC 4.5 ppbv)に固定した実験の解析から、以下の結果を得ている。 Weber et al. (2011)の採用した解析条件を踏襲した場合の渦熱フラックスと秋から春にかけての極域オゾン蓄積量との間の散布図は、両半球ともそれぞれ線形性を示すものの、回帰直線の勾配は北半球の方が南半球より大きく、南北半球で統合された様相は再現されない。ただし、Weberらの結果も、南半球で成層圏突然昇温が起こった2002年の1例を除くと統合性は崩れ、回帰直線の勾配は北半球の方が南半球よりも大きくなり、本研究における結果と整合的である。この事実は、秋から春にかけての極域オゾン蓄積量には渦熱フラックスで表現できない別の要因が関わっていることを示している。その要因として想定されるのは化学的オゾン消失過程であり、実際、ODS量を1960年レベルと2000年レベルに固定した実験の結果を比較すると、前者の方が両半球の相違が小さい。 次の課題は、化学過程の渦熱フラックス依存性の定量化と解釈であるが、Weber et al. (2003)が議論しているPSC体積の渦熱フラックス依存性を化学気候モデルによる実験結果を用いて解析したところ、Weber et al. (2003)と同様に南北半球について異なる回帰直線が得られた。PSC体積の代わりにNAT表面積についても同様の結果が得られ、両極間で化学過程の渦熱フラックス依存性が大きく異なることが示唆される。その特徴は1960年レベルのODS量の実験でも同様である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を迎えて結果をまとめるに当たり、大きな方針として次の2つを考えている。一つは、Weber et al. (2011)の示した線形性の根拠を理想化された枠組みで整理し、その限界を明らかにすることである。もう一つは、渦熱フラックスでは表現されない化学的効果を評価し、可能ならそれを補正することにより、両半球を統合する線形性の改良版を示すことである。後者の課題は、極成層圏雲の生成効率や化学反応係数の温度依存性という化学的要因だけでなく、活性塩素やオゾン破壊の進んだ大気の中緯度への漏出/極渦外との大気交換という極渦混合障壁の頑健性に依存する力学要因も関与するため、かなり複雑であるが、なるべく簡略な枠組みで記述することを目標に、重要な過程の特定を進めている。 これらの課題を遂行するにあたり、2種類のアンサンブル実験における化学気候モデルの結果は極めて有用である。ただし、モデルの基本性能や個性についての確認が必要である。現時点での知見は、北極の3月頃のオゾン全量が衛星観測値に対して負のバイアスをもつこと(秋吉ほか, 2019)である。また、本解析で得られた渦熱フラックスの値は、Weber et al. (2011)のFig. 4に示されているERA-Interimの解析値より2割程度小さい値となっている。これらの特徴は、モデルで表現される冬季成層圏の波動活動が過小評価気味であることを示唆しており、その結果は、冬季極域下部成層圏の最低気温の季節進行とその変動性にも現れている。 本研究の成果は、本年10月に延期された国際オゾンシンポジウムでの発表を目標に取りまとめるとともに、年度内に論文発表を済ませられるように進めたい。
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Causes of Carryover |
本年度(2020年10月)に開催される予定だった国際オゾンシンポジウムが1年延期されたため、その参加旅費を念頭に、本年度の支出を最小限に留めながら研究を進めてきたためである。本課題の最終年度の予算枠は多くないため、参加旅費に相当する分の留保を続けている。 新型コロナウイルス蔓延の影響は国内外を問わず、ほとんど全ての学会に及んでおり、残念ながら分担者や研究協力者との議論の機会も制約を受けざるを得ない。こうした状況は当分続くと考えられるため、旅費として計上していた予算は当初の計画通りには支出できない可能性が高い。その分を有効活用するために、研究成果の早期投稿を目指して努力したい。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Projecting ozone hole recovery using an ensemble of chemistry-climate models weighted by model performance and independence2020
Author(s)
Amos, M., P. J. Young, J. S. Hosking, J.-F. Lamarque, N. L. Abraham, H. Akiyoshi, A. T. Archibald, S. Bekki, M. Deushi, P. Joeckel, D. Kinnison, O. Kirner, M. Kunze, M. Marchand, D. A. Plummer, D. Saint-Martin, K. Sudo, S. Tilmes, and Y. Yamashita
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Journal Title
Atmos. Chem. Phys.
Volume: 20
Pages: 9961-9977
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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