2019 Fiscal Year Research-status Report
高解像度大気モデルで利用可能な積雲パラメタリゼーションの開発
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19K03964
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千喜良 稔 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (20419146)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 大気 / シミュレーション / 積雲 / パラメタリゼーション / グレーゾーン / Unified Parameterization |
Outline of Annual Research Achievements |
気候の数値シミュレーションを行うモデルでは、通常、積雲を解像できないため、その統計的な影響を計算する理論モデルである積雲対流スキームが用いられる。しかし、近年可能となってきた10kmスケールの解像度(グレーゾーン)のもとでは、従来の積雲対流スキームを適用することができない。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の荒川昭夫名誉教授は、積雲対流スキームをグレーゾーンに対応させる枠組みとしてUnified Parameterizationを提案したが、この枠組みは、雲頂高度の異なる複数の積雲(雲タイプ)の存在を考慮していないという問題がある。申請者は、Unified Parameterizationを複数の雲タイプを考慮するものに一般化する仕事を行っている。
本研究実施期間の第一年度において、申請者は、Unified Parameterizationを複数の雲タイプに一般化させる定式化の検討を行い、これを完了した。申請者が構築した定式化においては、対流に対するフォーシングが弱いときには、グリッド内の雲の面積はグリッドの面積よりもずっと小さいが、フォーシングが大きくなるにつれ、グリッド内の雲の面積が増加していく。その際、特に、フォーシングの好む雲タイプの面積が優先的に大きくなり、他の雲タイプは徐々に消えて行く。フォーシングが十分に大きくなると、グリッドは、その雲タイプによって占有される。また、申請者は、この完成した定式化を日本の全球非静力学大気モデルであるNICAMに実装するための準備を開始した。
Unified Parameterizationを複数の雲タイプに一般化することで、グレーゾーンの解像度の大気のシミュレーションにおける積雲の取り扱いに関する基盤が確立し、グレーゾーンのの解像度のシミュレーションの精度を高めることができると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者は、本研究の第一年度において、Unified Parameterizationを複数の雲タイプに一般化するための定式化を完了した。具体的には、(1) Eddy fluxが、雲タイプ間の相互作用が現れない形式で書けることを見いだし、(2) 優先的に成長する雲タイプの外側の空いたスペースで、次に優先される雲タイプが成長する、とする定式化を行い、(3) Eddy fluxの式に近似を施すことによって(2)の定式化を簡便に解く方法を提案し、(4) 対流へのフォーシングの強さに応じて優先的に成長する雲タイプを決定するように定式化をした。また、(3)の近似を行う事により、(5) フォーシングの大きさに応じて雲が成長する速度を調節可能にする定式化が可能になることを示した。これらによって、Unified Parameterizationを複数の雲タイプに一般化する上での基本的な問題は解決したと考える。また、この定式化を、日本の全球非静力学大気モデルであるNICAMに実装するための準備をしている。
研究実施計画では、第一年度の後半に、完成された定式化のモデルへの実装を完了する予定であったが、これはまだ完了していないため、進捗区分を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
一般化されたUnified Parameterizationを全球非静力学モデルNICAMに実装する作業を、昨年度から引き続いて進め、今年度の前半までに完了する。昨年度までの作業により、NICAMのプログラムの構造や使用方法には習熟してきている。
Unified Parameterizationは理論的には実現可能であるが、実際に実装してシミュレーションを行った際、様々な予期せぬ問題が発生する可能性が高い。そこで、本年度中に、一般化されたUnified Parameterizationの本格的な実験を行う前の、短期間のシミュレーションを行い、スキームが意図された振る舞いをするかどうかを見るために、素過程をチェックする。ここで発生した様々な問題をふまえ、定式化の修正やスキームのチューニングを行う。そして、その結果について、成果発表を行う。
また、Unified Parameterizationのより詳細な性能評価のための実験を開始する。具体的には、NICAMにおいて、(1)一般化されたUnified Parameterizationを使用した実験、(2)Unified Parameterizationを実装していない積雲対流スキームを使用した実験、(3)積雲対流スキームそのものを使用しない実験を行う。解像度としては、ひとまず28kmを対象とする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた大きな理由は、論文投稿料として計上していた経費が使用されなかったことである。本年度に論文執筆を行う予定であるため、この未使用額は、本年度に使用されることになる。また、二台目の外部ディスプレイの購入費用を想定していた物品費が使用されなかった。これは、二台目のディスプレイがなくても研究を遂行できると判断しなおしたためである。本年度は、現在使用しているコンピューターが老朽化してくるため、新しいコンピューターを購入する予定であり、本経費は、購入する新しいコンピューターの性能の引き上げ分に使用する計画を立てている。
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