2021 Fiscal Year Research-status Report
有珠山の次期噴火予測対応研究:洞爺カルデラと有珠山の全噴火史解明
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19K03983
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Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
後藤 芳彦 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20221252)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 洞爺カルデラ / 全噴火史 / 先カルデラ期 / 火山噴出物 / 火砕流堆積物 / 層序 / 立香火砕流堆積物 / 壮瞥火砕流堆積物 |
Outline of Annual Research Achievements |
洞爺カルデラと有珠山の全噴火史を解明するため、先カルデラ期の火山噴出物(壮瞥火砕流堆積物、滝ノ上火砕流堆積物、長流川火砕流堆積物)、カルデラ期の火山噴出物(洞爺火砕流堆積物)、および後カルデラ期の火山噴出物(中島、有珠山の火山噴出物)の詳細な野外地質調査を行った。また、それらの火山噴出物の顕微鏡記載、全岩化学分、析年代測定を行なった。 その結果、先カルデラ期の最も古い火山噴出物である壮瞥火砕流堆積物の下位から、これまでの文献に未記載の火砕流堆積物を発見した。この火砕流堆積物は洞爺湖南東方の長流川沿い(立香地域)に広く分布しており、「立香火砕流堆積物」と命名した。立香火砕流堆積物は角栓石を多量に含み、壮瞥火砕流堆積物とは鉱物組成で区別できる。また、立香火砕流堆積物と壮瞥火砕流堆積物の境界には土壌層が確認できたことから、立香火砕流堆積物は壮瞥火砕流堆積物よりも古い、全く別の火砕流堆積物であることが判明した。 この立香火砕流堆積物の発見により、洞爺カルデラの先カルデラ期の火山噴出物の層序が確立した。洞爺カルデラの先カルデラ期の火山噴出物の層序は、下位から、(1)立香火砕流堆積物、(2)壮瞥火砕流堆積物、(3)滝ノ上火砕流堆積物、(4)長流川火砕流堆積物である。この層序の確立により、洞爺カルデラの形成史の詳細な議論を行うことが可能になった。この発見は洞爺カルデラの形成機構の解明に関する研究を進める上で、大きな前進である。 立香火砕流堆積物の発見は、日本火山学会2021年秋季大会において、「北海道洞爺カルデラ地域における先カルデラ期の火砕流堆積物の発見:立香火砕流堆積物」という表題で口頭発表を行なった(後藤ほか2021:日本火山学会2021年秋季大会講演予稿集49ページ:B1-05)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
洞爺カルデラの南東方地域から、これまでの文献に未記載の火砕流堆積物を発見し、「立香火砕流堆積物」と命名した。この立香火砕流堆積物は、洞爺カルデラの先カルデラ期の最初期に噴出したものである。この火砕流堆積物の発見により、洞爺カルデラ地域で、約70年ぶりに新しい地質ユニットが追加されることになった。新しい地質ユニットの発見は、洞爺カルデラの研究を進める上で非常に有意義である。この「立香火砕流堆積物」の発見により、洞爺カルデラの先カルデラ期の火山噴出物の層序が確立した。洞爺カルデラの先カルデラ期の火山噴出物の層序は、下位から、(1)立香火砕流堆積物、(2)壮瞥火砕流堆積物、(3)滝ノ上火砕流堆積物、(4)長流川火砕流堆積物である。この層序が確立されたことにより、洞爺カルデラの形成史の詳細な議論を行うことが可能になった。 立香火砕流堆積物を含めた先カルデラ期の火山噴出物の噴出年代や化学組成を詳細に検討することにより、洞爺カルデラの形成に関する研究を大きく前進させることができる。洞爺カルデラの先カルデラ期については、これまでに詳細な研究は全くない。このため、この立香火砕流堆積物の発見は、洞爺カルデラの形成史に関する研究を行う上で、極めて大きな役割を果たす。 立香火砕流堆積物の発見は日本火山学会2021年秋季大会において公表しており(後藤ほか2021)、当初の計画以上に研究は進んでいる。今年度は、コロナウイルスの影響で野外調査や化学分析などで実行困難な状況が続いており、参加を予定していた国際学会(Cities on Volcanoes 11)が延期になるなど、マイナスの要素が多かったが、全体的には、有珠山を含む洞爺カルデラの総合的な研究の進捗状況は極めて良好である。
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Strategy for Future Research Activity |
有珠山を含む洞爺カルデラの全ヒストリーを解明するため、先カルデラ期の火山噴出物、カルデラ期の火山噴出物、および後カルデラ期の火山噴出物の詳細な野外地質調査を行う。また、洞爺カルデラと他地域のカルデラとの比較を行うため、国内・海外の他のカルデラにおいて地質調査を行う。さらに成果公表として国際学会発表を行い、余裕があれば洞爺地域の一般住民への普及活動も行う。 洞爺カルデラの先カルデラ期の火山噴出物については、立香火砕流堆積物、壮瞥火砕流堆積物、滝ノ上火砕流堆積物、長流川火砕流堆積物の野外地質調査と室内分析を行う。さらに洞爺カルデラの周囲に存在する溶岩の調査・研究も行う。カルデラ期の火山噴出物については、洞爺火砕流堆積物の野外地質調査と室内分析を行う。特にカルデラ陥没時の状況を把握するため、洞爺火砕流堆積物の詳細な野外記載を行う。後カルデラ期の火山噴出物は、中島と有珠山の火山噴出物の詳細な野外地質調査を行う。中島は本島の他に、ボートを用いた周辺湖底探査も行う。有珠山は昭和新山などの潜在ドームの調査を中心に進める。 国内・海外のカルデラ調査では、特にギリシャのサントリーニで地質調査を行う。洞爺カルデラとサントリーニを比較・検討することにより、洞爺カルデラの形成史をより深く理解することができる。学会発表は、国際学会(Cities on Volcanoes 11)で口頭発表を行う。この学会の現地検討会がサントリーニで行われるため、この現地検討会にも参加し、洞爺カルデラの形成史に関する議論を行う。 なお、今年度もコロナウイルスの影響は続いているため、研究手法をコロナウイルスの影響の少ないデジタルマッピングやコンピュターソフトウェアによる解析等に変更する可能性がある。特にサントリーニの調査と国際学会は不確定要素が大きく、コロナウイルスの状況をみて適宜予定を変更しながら行う予定である。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた状況:(1)コロナウイルス蔓延のため、2021年度開催予定の国際学会(Cities on Volcanoes:ギリシャ)が2022年に延期になり、成果公表のための海外渡航旅費を使用しなかった。(2)コロナウイルス蔓延のため、2021年度開催の国内学会(日本火山学会:名古屋)がZoomを用いた遠隔発表になり、成果公表のための国内旅費を使用しなかった。(3)コロナウイルス蔓延のため、外部機関の化学分析ラボが閉鎖になり、化学分析の発注を行えなかった。 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画:(1)国際学会(Cities on Volcanoes:ギリシャ)が2022年6月に開催されることが決定したため、この参加費用(渡航費用:野外検討会を含む)として使用する。(2)国内・国外のカルデラの野外調査費用として使用する(特にサントリーニ)。(3)外部機関の化学分析ラボに化学分析の発注を行う。
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