2022 Fiscal Year Research-status Report
噴火が危惧される弥陀ヶ原火山のマグマ供給系―熱水流動経路の解明
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19K03988
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
石崎 泰男 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 教授 (20272891)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 水蒸気噴火 / 熱水系 / マグマ供給系 / 地獄谷 / 弥陀ヶ原火山 |
Outline of Annual Research Achievements |
富山県・弥陀ヶ原火山は、最近1万年間に繰り返し水蒸気噴火を発生させてきた熱水系卓越型火山である。次期噴火に向けた監視と防災対策をより現実的なものとするため、次期噴火の想定発生場である地獄谷において、以下の研究を行った。 (1)熱水の起源となっているマグマ溜りの位置を特定することを目的に、現在の水蒸気噴火卓越期の直前に噴出した玉殿溶岩について物質学的解析を継続して行った。同溶岩の角閃石斑晶の化学組成の追加分析を行い、角閃石圧力計(Ridolfi et al.、 2010)から120-330 MPaの圧力値が得られた。この圧力値は前年までに得られていた値の範囲内にあり、上部地殻の岩石を花崗岩としたとき、玉殿溶岩のマグマ溜りの深度(角閃石斑晶の晶出深度)は4~12 kmと推測される。 (2)地獄谷内の噴気帯の盛衰を、UAV (DJI社製Phantom 4 pro)を用いて調査した。その結果、新大安地獄、八幡地獄及び紺屋地獄では活動が見かけ上鎮静化しつつあること、新噴気帯と百姓地獄では活発化している噴気孔と鎮静化している噴気孔が近接して共存していることが明らかになった。これらの現象は、一部の噴気帯では全体的に火山流体の通路が閉塞もしくは深所からの供給が減少傾向にあること、また新噴気帯と百姓地獄では閉塞しつつある流体通路と新たに形成された流体通路が近接して共存していることを示唆する。 (3)地獄谷内の代表的な噴気帯である新噴気帯、紺屋地獄、百姓地獄、八幡地獄及び新大安地獄(計10地点)でタイムラプスカメラによる定点観測を行った。その結果、1946年に小規模な水蒸気噴火を発生させた新大安地獄(小火口)において、火口壁の崩落と火口底の埋積が進行し、ガスの放出が阻害されつつあることが本年度も確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の目的は、①熱水の起源となっているマグマ溜りの位置を特定すること、②熱水溜りからの熱水流動経路を特定すること、③再噴火が危惧される新大安地獄火口で噴火の前兆現象を捉えることである。①については、玉殿溶岩について物質学的解析によりマグマ溜りの位置情報のうち深度を推定することができた。また、マグマ溜りの温度情報については既にこれまでの研究により明らかにできている。②については、UAVやタイムラプスカメラを用いた観測により、地獄谷内の各噴気帯の活動の盛衰についての情報が順調に取得でき、それぞれの噴気帯の活動推移の実態が明確になりつつある。一部活動が活発化している噴気帯があるものの、全体としては徐々に活動が低下しつつあることが、これまでに取得した画像データから見えつつある。③についても、タイムラプスカメラによる定点観測により、新大安地獄の活動の状況変化が把握できた。新大安地獄の噴気活動は、表面上は年々低下しつつあるように見える。これは土砂により地表部に存在した噴気孔が埋積したことによるものでる。新大安地獄では過去に火口が埋積後に噴火が再発しており、今後も注意深く監視を続ける必要がありそうである。 このように、当初目的を達成するために順調に観測・研究が進んでおり、本課題の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度には予定していた研究計画がほぼ順調に進めることができており、令和5年度も以下の計画で研究を継続する。 (1)熱水の起源となっているマグマ溜りの深度や温度についての情報を得るため、玉殿溶岩及びその先行噴火期の溶岩について岩石学的解析をさらに進める。具体的には、、前年度に実施できなかった溶岩試料のSr及びNd同位体比と斑晶鉱物中のガラス包有物の含水量測定を北海道大学「マグマ変遷解析センター」において行い、マグマの成因及び水の飽和圧力をもとにマグマ溜りの深度について検討する。 (2)赤外線カメラ搭載UAVによる地獄谷全域の熱画像観測を本年度も継続する。UAV観測は、これまでの観測と同様、地表温度が低下する9月に実施予定である。 (3)タイプラプスカメラによる熱水孔・噴気孔の定点観測は、令和5年度で7年目になる。令和元年度には研究室所有のIoTカメラを3台観測に用いることで、一部の熱水孔・噴気孔については大学にいながらその状況をモニタリングできるようになった。令和2年度にも新に3台IoTカメラを観測に導入し、リアルタイムモニタリング体制をより充実させてきた。令和4年度には観測に用いる全カメラをIoTカメラにすることができた。タイプラプスカメラにより観測は、7月上旬から11月上旬にかけて行う予定である。
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Causes of Carryover |
所属学科の諸事情により、令和4年度には講義負担量が前年度に比べ5割ほど増した。そのため、当初予定していた北海道大学「マグマ変遷解析センター」での分析のための時間(約3週間を要する)を作ることができなかった。その結果、予算の一部が未使用となった。「マグマ変遷解析センター」での分析を本年度は実施予定であり、前年度未使用予算の一部を分析旅費に用いる。 また、昨年度の観測中に赤外線カメラを搭載したUAVが墜落し、カメラと機体を遺失した。本年度は、代替のカメラとUAVを用いて今年度は観測を継続する予定である。カメラを機体に装着するためのマウントをオランダのメーカーに私費立替払いで発注したものの、年度内に納品ができないと予想されたため、立替金額分を本年度まで残すことになった。
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