2021 Fiscal Year Research-status Report
マッシュ状マグマの再流動化時間と噴火規模-斑晶の元素拡散記録からの制約-
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19K04000
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鈴木 由希 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (00374918)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安田 敦 東京大学, 地震研究所, 准教授 (70222354)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 榛名火山 / 溶岩ドーム / マッシュ状珪長質マグマ / マグマ混合 / 暗色包有物 / 結晶内元素拡散 / 噴火様式分岐 / 噴出物総量 |
Outline of Annual Research Achievements |
榛名火山の新期活動を研究対象としている。2019年度までに取得してあったデータに、いくつか補充を行い、論文公表を進めた(Suzuki et al., in review)。論文では、榛名富士・蛇ヶ岳・相馬山・水沢山の4つの溶岩ドーム噴火(4万5千年前から1万年前まで)と、Suzuki and Nakada(2007)の研究のある二ツ岳伊香保噴火(6世紀末~7世紀初頭)を、マグマ供給系や噴火誘発過程の観点から比較した。どの噴火も、マッシュ状珪長質マグマに対し、無斑晶質に近い苦鉄質マグマが注入して誘発されたものである。噴火直前の供給系には2端成分マグマが存在した。珪長質端成分マグマの性質は、古い4噴火と二ツ岳伊香保噴火とで明確に異なり、後者で未分化かつ高温である。 高粘性で自力噴出の困難なマッシュ状珪長質マグマが地表に噴出する場合、特徴的な推移をたどる。苦鉄質マグマとの相互作用(混合・苦鉄質マグマによる加熱)により粘性の低下した部分が先に噴出し、その後、改変のない元のままの珪長質マグマが単独で、大量かつ爆発的に噴出する(二ツ岳伊香保噴火も、その一例)。古い4つの溶岩ドームは、2端成分マグマの混合産物のみから構成される。したがってこの4噴火は、上記の推移の最初のステージで終わった噴火といえる。これは、溶岩ドーム噴火の各々の総噴出物量が、二ツ岳伊香保噴火に比べ1桁小さいこととも調和的である。 珪長質マグマ由来の斑晶のコア組成は、一部の鉱物種に関しては、二ツ岳伊香保噴火と古い4溶岩ドーム噴火でよく似ている。これは5つの全ての噴火の珪長質端成分マグマが共通のソースから発生した可能性を示唆する。その場合、二ツ岳伊香保噴火の珪長質端成分マグマが準備される過程においては、ソースに対して最も顕著に苦鉄質マグマが混合したということになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
榛名火山の新期活動について、過去4万5千年間に渡る期間に発生した複数噴火の比較研究を実施し、その成果を国際誌に投稿することができた(Suzuki et al., in review)。この研究により、複数噴火に共通して見られるマグマ供給系の特徴と噴火誘発過程を明らかにすることができた。しかし、噴火誘発過程の理解をさらに進めるには、マッシュ状珪長質マグマと苦鉄質マグマの相互作用開始から噴火までのタイムスケールの見積もりを行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、榛名火山の4万5千年間に渡るマグマ供給系の進化過程の理解を、より完全なものとするため、二ツ岳渋川噴火(5世紀末~6世紀初頭)の検討を行う。二ツ岳渋川噴火は、Suzuki et al. (in review)では扱っていない。二ツ岳渋川噴火は、その名前が示すとおり、二ツ岳伊香保噴火と同一の火口で発生したものである。二ツ岳渋川噴火の珪長質端成分マグマは、二ツ岳伊香保噴火の珪長質端成分マグマと同等のバルク組成を有する可能性が高いことが、全岩化学組成データ等の検討により判明している。この先、二ツ岳渋川噴火の噴出物の斑晶化学組成データを取得することにより、二ツ岳渋川噴火の珪長質端成分マグマが、二ツ岳伊香保噴火の珪長質マグマと共通のものであることを明確したい。 さらに、上記の作業と平行し、二ツ岳渋川噴火と二ツ岳伊香保噴火の噴出物中の斑晶の組成累帯構造の比較検討を行う。二ツ岳渋川噴火と伊香保噴火の珪長質マグマが同じマグマ溜りに由来したものであることを前提とし、渋川噴火の前と2噴火の間の期間に発生した、珪長質マグマと苦鉄質マグマとの相互作用の実態を、明らかにするということである。二ツ岳伊香保噴火は二ツ岳渋川噴火よりも一回り大きい規模の活動であるので、それがどのタイミングの相互作用で決定づけられたかについても検討する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍に伴う様々な研究実施上の制約を考慮し、2021年度はそれまでの研究成果の公表作業を優先させた(「研究実績の概要」参照)。その結果、試料調整や観察・分析が進まず、それらに充てる予定であった研究費を繰越すこととなった。繰り越した研究費は、岩石薄片作成委託費や、観察・分析に関わる消耗品購入費に充てる予定でいる。
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Research Products
(2 results)