2020 Fiscal Year Research-status Report
苦鉄質マグマの火道上昇に伴う物性変化とその噴火ダイナミクスへの影響の解明
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19K04014
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
石橋 秀巳 静岡大学, 理学部, 准教授 (70456854)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥村 聡 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40532213)
安田 敦 東京大学, 地震研究所, 准教授 (70222354)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 苦鉄質マグマ / 噴火様式 / マイクロライト / 脱ガス / 結晶作用 / レオロジー / 火道浅部 / 石基 |
Outline of Annual Research Achievements |
苦鉄質マグマの噴火様式に及ぼす火道浅部プロセスについて明らかにするため,伊豆半島で4000年前に発生した大室山噴火のスコリアおよび溶岩の石基組織解析を行った。大室山噴火では,火砕丘の山頂火口で爆発的噴火を発生すると同時に,その麓に開口した測火口から溶岩流を流出したことが知られる。このため,どのような火道浅部プロセスによって爆発的と非爆発的の噴火様式が分岐するのかを検討するうえで適した研究対象といえる。微細組織解析の結果,スコリアの石基は2段階の結晶作用を経験しており,そのうち2段階目の結晶作用は,山頂火口と側火口へ火道が分岐したのちにおこったことが明らかとなった。さらに2段階目の結晶作用によって,石基の結晶量が,マグマの粘性‐脆性遷移のおこる閾値をこえることがわかった。このことは,側火口への火道分岐点より浅部での結晶作用によって,マグマの力学的ふるまいが粘性から脆性へと変化したために,山頂火口で爆発的噴火が発生したことを示唆する。このことは,溶岩流中の石基結晶が定向配列を示すのに対し,スコリア中の石基結晶は方位がランダムである(すなわち結晶化後に流動していない)ことからも支持される。 また,大室山の他に,富士山S18噴火や霧島御鉢1235年噴火といった苦鉄質マグマのサブプリニー式噴火のスコリアについても,石基組織解析を行った。この結果,いずれのスコリアについても,同一の堆積層準の試料の中で,その結晶量が粘性‐脆性遷移のおこる閾値より有意に低いものから高いものまで幅広く変化することが明らかとなった。このことは,同一の火道でほぼ同時に爆発するマグマの中で,破砕メカニズムの異なるものが混在していることを示唆する。これは,苦鉄質マグマの爆発的噴火プロセスにおいて本質的な素過程であると考えられ,今後,その具体的なメカニズムを解明するための研究を実施する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナウイルス感染症の世界的流行のため,当初計画していた,東大地震研究所でのEPMAによる局所化学分析を実施することができなかった。そこで,前年度までに取得していたスコリア石基の後方散乱電子(BSE)像の画像解析技術の開発,およびそれを用いたスコリアの石基微細組織解析に注力することとした。その結果,まず,スコリア石基の定量画像解析のルーチンが構築でき,分析にかかる時間をおよそ5分の1程度まで短縮することに成功した。また,伊豆大室山噴火・富士山S18噴火・霧島御鉢1235年噴火・伊豆大島1986年噴火といった苦鉄質マグマの爆発的噴火の複数の事例について,石基組織の定量解析データが蓄積された。これらにより,苦鉄質のスコリアが共通に有する本質的な特徴や,その形成過程を理解するうえで注目すべき観察点が何かなどがわかり,研究を進めるうえでの見通しが非常に良くなったといえる。この点で,新型コロナウイルス感染症のために当初の研究計画が変更になったものの,その進捗は概ね順調であると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究成果から,苦鉄質マグマの噴火メカニズムを理解するうえで解明すべき問題点が明らかになった。それは,同一火口からほぼ同時に噴出された火砕物中で石基鉱物の量に著しいバリエーションが生じるのは何故か,という点である。石基結晶の量をコントロールすると考えられる要素は,マグマの温度・破砕深度・結晶作用のカイネティックな遅れの程度の3つであるが,このうち温度と破砕深度については鉱物・ガラスの化学組成から検証可能である。そこで2021年度は,スコリア中の石基結晶およびガラスの化学分析を系統的に行い,石基鉱物の量にバリエーションを生じた原因について検討したい。これを明らかにできれば,苦鉄質マグマの火道浅部プロセスが噴火様式に及ぼす影響についての理解が格段に進むと見込まれる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行のため、当初予定していた野外調査や機器分析のための出張ができなかったために、次年度使用額が生じた。この予算については、2021年度の野外調査・分析のための出張の費用およびオープンアクセス論文の出版費用に使用する予定である。
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