2021 Fiscal Year Research-status Report
地震波解析による水蒸気噴火発生場の解明:御嶽山・草津白根山におけるケーススタディ
Project/Area Number |
19K04016
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
前田 裕太 名古屋大学, 環境学研究科, 講師 (00728206)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 水蒸気噴火 / 火山地震学 / 熱水系 / 地震波干渉法 |
Outline of Annual Research Achievements |
水蒸気噴火は火山浅部の帯水層への熱供給による地下水の急激な気化現象と考えられ、その熱供給の具体的な機構を解明することは水蒸気噴火の発生過程を知る上で重要である。本課題では2014年に水蒸気噴火を起こした御嶽山において定量的な熱輸送モデルの構築を目指し、そのための制約条件として地震学的観測から熱輸送を担う媒体の(1)種類とフラックス、(2)出発点(マグマだまり)の深さ、(3)到達点(帯水層)の深さを推定する。 2021年度は(3)の推定に重点的に取り組んだ。まず解析手法の改良を行った。用いたのはseismic daylight imagingという手法である。同手法では観測点に鉛直入射する地震波の自己相関関数を用いて地下の反射強度の空間分布(反射断面)を推定する。地下構造に関する先験情報が不要で、一観測点の記録のみから地下構造を推定できるという利点がある。しかし同手法で得られる反射断面は通常、多数の縞模様を持つ像となり、その中から本物の反射面を見分けるのは容易でない。そこで本研究では従来行われていなかった自己相関関数の誤差レベルの評価手法を考案した。これにより個々の反射面の有意度を定量化でき、有意な反射面の抽出が容易になった。御嶽山の熱水系と同程度の深さスケールを持ち、かつボーリング調査などで地下構造がよく調べられている首都圏の堆積層-基盤岩構造をテストフィールドとして改良手法の検証を行い、その成果を査読付き国際誌に出版した。 次に改良手法を用いて御嶽山浅部の反射断面の推定を行い、山頂域の地震活動から別途推定した層構造と比較を行った。その結果、新期御嶽-古期御嶽-基盤岩の3層からなる構造が概ね整合的に推定され、2014年の噴火ソースや山頂域の震源が古期御嶽もしくは古期御嶽-基盤岩境界付近に位置するという推定も得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題では御嶽山において定量的な熱輸送モデルの構築を目指し、そのための制約条件として熱輸送を担う媒体の(1)種類とフラックス、(2)出発点(マグマだまり)の深さ、(3)到達点(帯水層)の深さを推定する。そのための年次計画として、研究計画調書では(a)機械学習による地震検知手法の開発(2019~2020年度)、(b)検知した地震の周波数・規模・頻度の推定(2020~2021年度)、(c)地震波速度構造の推定(2021~2022年度)、(d)比較対象としての草津白根山2018年噴火の研究(2019~2020年度)、(e)地下水加熱のシミュレーション(2022~2023年度)、という5つのテーマを設定していた。 2021年度は御嶽山の浅部構造に関して重要な知見が得られそうな感触があったので優先的に取り組んだ。その結果、(3)で直接の研究目標とした帯水層の深さだけでなく、御嶽山浅部の熱水系と流体供給の全体像に関して一定の描像が得られた。また、少し横道にそれるが手法開発とテストの成果を査読付き国際誌に出版することができた。 年次計画の項目別に見ると、(a)(b)に関して2020年度に残った課題があったが後回しにしたので進んでいない。(c)は浅部構造と深部構造に分けられ、浅部構造の解明は進んだ一方で深部構造に関しては研究に着手した段階である。(d)に関しては2020年度に研究を完了し、2021年度に論文として投稿を行ったが年度末時点で査読が続いている。(e)に関しては2021年度末に熱流体連成シミュレーションシステムのソフトウェア(COMSOL Multiphysics)の購入を行った。そのための予備的な計算をソフトウェアの試用版を用いて進めた。以上から(a)(b)は遅れ気味であり、(c)~(e)は概ね計画通りである。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況を踏まえて、残っている主な課題は(i)熱輸送を担う媒体の種類とフラックス推定のための低周波地震・微動の網羅的検知と解析(研究目標(1)、年次計画(a)(b))、(ii)マグマだまりを含む深部構造の解明(研究目標(2)、年次計画(c))、(iii)地下水加熱のシミュレーション(年次計画(e))の3つであり、これらを今後2年間で完成させる必要がある。 (i)に関しては2021年度に後回しにしたが、その間にデータの蓄積も進んだのでそれを含めて解析を行う。特に2022年2月~3月に発生した傾斜変動を伴う微動は浅部への流体輸送を解明する重要な手掛かりになると考えられるのでその変動源の推定を進める。 (ii)に関しては浅部よりも難航する可能性がある。まずは2021年度に開発した自己相関関数の誤差評価に基づく反射断面推定を深部にも適用してみる。同手法で深部構造の描像が得られない場合には相互相関関数など他手法の検討も必要になるが、解析に時間がかかることも予想される。一方でマグマだまりの位置に関しては研究代表者が観測に関わっている御嶽山水準測量のデータからも地震波よりも少ない解析量で知見が得られることも期待でき、そうしたアプローチも併用する。 (iii)も同時進行で進める。2021年度にソフトウェアの試用版を用いて実施した予備的な検討では解析が収束しない等の問題に遭遇した。そこでまずは予備的な解析を更に進め、解が求まる問題設定・条件設定の方法を確立する必要がある。また、浅部を中心に御嶽山の流体供給に関して既に一定の描像が得られているのでその知見を活用してモデリングを(i)(ii)と並行して進める。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で国際学会が再延期となったこと、国内学会や会議等もオンライン開催となったこと、同様の理由で運営費交付金にも余裕が生じたため支出の一部を運営費交付金で行ったことにより次年度使用額が生じた。 延期になった国際学会は2022年度に開催予定である。また研究計画調書に無かった出費予定として熱流体連成シミュレーションシステムのソフトウェアの年間保守費用があり、次年度使用額はそれらに充てる予定である。
|