2022 Fiscal Year Research-status Report
地震波解析による水蒸気噴火発生場の解明:御嶽山・草津白根山におけるケーススタディ
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19K04016
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
前田 裕太 名古屋大学, 環境学研究科, 講師 (00728206)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 火山の熱水系 / 地下構造 / 震源分布 / 流体 |
Outline of Annual Research Achievements |
水蒸気噴火は火山浅部の帯水層への熱供給による地下水の急激な気化現象と考えられ、その熱供給の具体的な機構を解明することは水蒸気噴火の発生過程を知る上で重要である。本課題は御嶽山において定量的な熱・流体輸送モデルの構築を目標としている。2022年度は地下構造と震源分布の解析に基づいて流体移動の詳細な描像を得ることに成功した。また、2014年噴火以降で最大の地震活動が2022年2月~3月にかけて発生したため、その力源解析にも取り組んだ。 地下構造解析は前年度に大筋の結果は得ていたが、2022年度は論文化に向けてデータの期間を揃えて再解析を行った。データ・手法の異なる解析結果間の定量的比較を可能にするための工夫を行い、その比較に基づいて信頼性の高い地下構造推定結果を得た。更にその構造を用いて長期間の地震活動の震源分布の再推定も行った。その結果、(1)御嶽山浅部(海抜より上部)は新期御嶽・古期御嶽・基盤岩の3層で近似できる、(2)長期間の圧密により低浸透率化した古期御嶽が流体移動に対してバリアの役目を果たしている、(3)山頂直下の海抜付近を上端とする準固結の低温マグマだまりの冷却・固化が浅部への流体供給源となっている、(4)現在は流体が古期御嶽の一部を貫通し、古期・新期境界で水平に向きを変えて現在の活動域直下に供給されている、というモデルが得られた。 2022年の地震活動解析からは、地震活動の大部分が古期御嶽の下端付近で発生したこと、最大イベントの力源が2014年噴火直前の類似イベントに比べて小規模であったこと、が明らかとなった。このことから2022年にも流体貫入があったものの小規模であったためバリアを貫通せず噴火に至らなかったとの解釈が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題では御嶽山において定量的な熱輸送モデルの構築を目指し、そのための制約条件として熱輸送を担う媒体の(1)種類とフラックス、(2)出発点(マグマだまり)の深さ、(3)到達点(帯水層)の深さを推定する計画であった。そのための年次計画として、研究計画調書では(a)機械学習による地震検知手法の開発(2019~2020年度)、(b)検知した地震の周波数・規模・頻度の推定(2020~2021年度)、(c)地震波速度構造の推定(2021~2022年度)、(d)比較対象としての草津白根山2018年噴火の研究(2019~2020年度)、(e)地下水加熱のシミュレーション(2022~2023年度)、という5つのテーマを設定していた。 このうち(c)は2022年度で解析が完了し、論文出版を残すのみとなった。(d)は論文出版を含めて完了した。(a)(b)は計画時点で予期しなかった課題に直面し、別のアプローチでの代用を考えている。2022年度は地下構造解析の完成を優先したため(e)はあまり進んでいない。目的別で見ると2022年度までに(2)(3)を明らかにすることができた。(1)は目途が立たないが、これまでの解析で流体の出発点と到達点だけでなく途中の経路の描像が詳細に明らかになったことや、2022年2月~3月に新たな地震活動が観測されたことから、現在までに得られた知見に基づいて最終目標である定量的な熱輸送モデルの構築に取り組むことは可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題も最終年度に入り、最終目標に取り組む段階である。2022年度までの研究で熱輸送を担う媒体の出発点(マグマだまり)の深さ、到達点(帯水層の深さ)だけでなく、途中の経路の状態について詳細な描像が得られ、更にその知見を用いて2022年2月~3月の地震活動活発化の原因についても解釈できるまでになった。残る大きな課題は地下水加熱のシミュレーションであり、2023年度はこれを主課題として進める。当初計画通りCOMSOL Multiphysicsを用いて実施する。 研究期間が残り1年を切っていることや研究代表者にとってシミュレーションの研究は初であることから、シミュレーションのみに絞ると2023年度内に成果を得られないリスクがある。そこでバックアッププランを兼ねて、これまでに得られた地下構造モデルに基づく過去の地震・地殻変動源の再解析も予定している。地震の力源や地殻変動源の推定結果は仮定する地下構造の影響を強く受けるので、最新の地下構造モデルを用いてこれらを再推定することは御嶽山浅部の流体移動を考える上で重要である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は生じたものの10万円以内であり、概ね予定通りである。コロナ禍において学会や会議などがオンラインやハイブリッドになるケースが多発したことで当初計画よりはやや使用額が少なくなった。2023年度は地下構造に関する研究成果の論文発表と、地下水加熱のシミュレーションによる研究成果発表のための使用を予定している。
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Research Products
(3 results)