2020 Fiscal Year Research-status Report
Stress evaluation of earthquake fault and slow slip fault in subduction zone
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19K04019
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
坂口 有人 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (80304666)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 震源断層 / 応力 / 歪 / 形成場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、沈み込み帯スロー地震の震源断層の化石を陸上付加体で特定し、その地質的特性を明らかにすることである。地表の露頭に断層は無数にあるが、その断層がどのようなセッティングでどれくらいの変位速度で専断したのかを識別するのは容易ではない。申請者はこれを区別する方法として断層近傍の応力・歪み分布に注目した。例えば地表の活断層は普段は変位していないが、地震時には震源断層の動きに追従して動く。そのため断層を中心として両側の母岩は引きずられた歪分布を持つだろう。これが震源深度の断層ならば、普段は固着しているが、地震の直前に亀裂が成長して固着部分を破壊する。そのときに亀裂先端には局所的な高い応力集中が生じるだろう。さらに地下深部の場合は、岩盤は金属やアクリルのように塑性変形するようになる。その場合は亀裂先端に応力が集中すると、同時に塑性変形が進行するために歪みは拡散し応力レベルは低くなり、亀裂はゆっくりとしか進展しない。このように断層周辺の応力・歪み分布から断層の破壊様式と断層のセッティングの識別、すなわち断層のキャラクタライズが可能になると期待される。 カルサイトは外力に応じて結晶内部に変形組織を残すという特徴を有する。この性質を利用して断層周辺の応力と歪みの状態を解析するために(1)多鉱岩にカルサイトが含まれる場合に双晶がどのように振る舞うのかの基礎実験、(2)その成果を天然の断層に応用する、ことを目指している。 2019年度は上記(1)に関して弾性率の異なる材料であってもカルサイト双晶密度は材料全体の歪みに比例することを確かめた。2020年度は、その成果をもって付加体中の震源断層と、地表付近の活断層における断層周辺部の応力・歪み分布を比較した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、四万十帯に露出する過去のプレート沈み込み帯震源断層と地表の活断層を調査した。 南海トラフにおけるプレート沈み込み帯には付加体が発達しており、震源深度には付加体の底面をなすプレート境界断層と、そこから分岐しているアウトオブシーケンス断層がある。白亜系四国四万十帯の牟岐メランジュおよび興津メランジュには、過去のプレート境界断層とアウトオブシーケンス断層が露出している。これらの断層露頭はいずれも200℃程度の古地温を経験しており、プレート沈み込み帯では地殻が脆性破壊する震源深度に相当する。そして断層周辺からカルサイト試料を採取して双晶密度から応力・歪み状態を解析した。その結果、震源断層のごく近傍にのみ局所的に高い歪が生じていたことが確認された。その集中レートは指数関数的であり、弾性体中の亀裂先端の応力集中のモデル計算値と矛盾しないものであった。これは地殻が弾性変形する震源深度における断層の応力集中をみているものと解釈される。 断層の地表付近における応力状態を知るために活断層におけるカルサイト双晶密度分析も行った。国内最大の内陸断層である中央構造線に沿って活断層が発達している。愛媛県湯谷口の川上断層の掘削コア試料のカルサイト双晶密度を分析したところ、断層中心部をピークとして、周辺の母岩に幅約100mにわたって緩やかに双晶密度が高くなることが確認された。この高い応力の集中レートは上記の付加体中の震源断層とは異なり、断層からの距離に正比例するものであった。これは地震時に断層が剪断する際に、両側の岩盤が引きずられたためと解釈される。 これらは断層周囲の岩盤の歪状態が、断層のセッティングに依存して変化することを示唆する。本研究の目的のひとつである断層のキャラクタライズに大きく前進した。
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Strategy for Future Research Activity |
震源断層は地下深部においては塑性変形が卓越することから流動的に剪断しており、より浅い部分では弾性変形が卓越することで巨大地震を発生させ、そして浅部では深部の動きに引きずられて変位している。そういった断層の形成場、剪断特性などの断層キャラクターを推定することは難しかった。しかしそれができなければ、それがスロー地震の断層を識別する事は難しい。 本研究はカルサイト双晶密度分析により地表付近から深部まで、岩石の弾性率の異なる岩盤においても古歪を解析できることを明らかにした。そして断層周辺の歪分布が、地表付近と震源深度で全く異なることを明らかにした。今年度はより深い領域の断層を分析することにより、スロー地震を発生させる深度の断層挙動を明らかにする。 九州四万十帯は四国や紀伊半島の四万十帯と比較して変成度が高く、沈み込み帯震源域の下部を経験したと考えられる。この地域において断層とその周辺の岩盤のカルサイト双晶密度解析を行い、断層周辺の歪分布を明らかにする。このような地下深部での断層帯では、高温であるためやや塑性的に振る舞ったと考えられ、断層を中心として緩やかな応力集中が生じると期待される。そしてスロー地震の断層を特定し、地質学的な特徴を記載する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大に伴って,2020年5月の日本地球惑星関連科学連合大会(千葉)がオンライン大会に移行し,2020年9月に開催予定だった日本地質学会学術大会(名古屋大学)が中止となった.そのための出張旅費を使用しなかったため.
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Research Products
(3 results)