2020 Fiscal Year Research-status Report
断層物性科学と動力学解析の統合による南海トラフ地震破壊伝播過程の解明
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19K04039
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
廣野 哲朗 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (70371713)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 南海トラフ地震 / プレート境界断層 / 断層ガウジ / 摩擦実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
来たる南海トラフ地震で起こりえる海溝付近の断層滑りの時空間発展の定量的評価を目指して,本年度は主に,南海トラフのプレート境界断層を模擬した砂岩試料の室内摩擦実験と陸上に露出している海溝型の地震断層の多角的分析を実施した.
1)南海トラフの高角逆断層やデコルマは,石英・長石などを多く含む砂質であることが報告されているため,砂岩における断層の滑りに伴う摩擦係数の変化およびスリップゾーンの組織変化について,室内摩擦実験,顕微鏡観察,表面凹凸計測を実施した.その結果,砂質な断層ではすべり速度に応じて摩擦・摩耗のメカニズムが大きく異なる. 高速滑り (m/s) では,ブロックの摩耗が顕著であり,ガウジ層内に散在した大きな破片が噛み合いや離脱を起こすことによって摩擦係数の増減を繰り返す不安定な挙動を示す. 一方,低速滑り (cm/s以下) では,摩耗によって生じた球状のナノ粒子がブロック表面の凹凸を埋めて断層鏡面を形成,断層鏡面上でのすべりによって弱化を起こし,その後は安定した摩擦挙動を示す.このような滑り速度による砂質な断層の摩擦挙動および断層面の状態の違いは,破壊伝播挙動に強い影響を与えうる.
2)1999年に台湾集集地震を引き起こしたことチェルンプ断層の試料にて,焼結による構造を確認し,さらに,複数の鉱物集合体(石英,長石,粘土鉱物)の室内実験での加熱にて,緑泥石が焼結助剤として機能していることを見出した.焼結現象は岩石の強度を高め,かつ表面積の減少によるエネルギーの放出を伴うため,プレート境界断層の地震後の強度回復のメカニズムの1つと言える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は,南海トラフ地震で起こりえる海溝付近の断層滑りの時空間発展の定量的評価を目指して,南海トラフのプレート境界断層を想定した断層試料の摩擦特性およびその変化の物質科学的な原因の究明がある程度,実施できた.その具体的成果として,Communications Earth & Environmentに論文を公表し,プレスリリースを実施した.さらに,これまでの研究をNHKサイエンスZERO「3.11から10年.地震学者たちが挑んだ“超巨大地震”」に出演し,アウトリーチに努めた.これらの客観的事象は,本研究課題が極めて順調に進んでいる証拠である.
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度は,これまでに蓄積した断層の物性情報および地震時に生じうる物理化学的素過程を考慮したプレート境界断層の断層滑り弱化の数値解析と動力学解析による破壊伝播過程シミュレーションを実施し,当初の目的である来たる南海トラフ地震で起こりえる海溝付近の断層滑りの時空間発展の定量的評価の達成を目指す.
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Causes of Carryover |
COVID-19による大阪府での緊急事態宣言を受けて,共同研究先に出張する機会が激減したためである.しかし,翌年度に繰り越すことによって,当初の目的である来たる南海トラフ地震で起こりえる海溝付近の断層滑りの時空間発展の定量的評価に向けた研究をさらに推進することが出来る.
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Research Products
(11 results)