2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K04051
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
平尾 直久 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (70374915)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地球核 / 水素 / 高温高圧 / 放射光 / X線回折 / 相平衡関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,地球核領域における金属鉄水素化物の密度と相平衡関係に基づき,地球核の組成構成と温度構造モデルを構築し,地球核中での水素の影響を物質科学的に解明することを目指している.これまで,レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧発生技術と放射光X線回折を組み合わせた手法により,金属鉄と水素の二元系に関して,圧力82万気圧,温度1500 Kの高温高圧条件での実験により,以下のことが判ってきた.1) 高温高圧下で,水素供給源が十分にある水素リッチな場合と,水素に枯渇している場合で,出現する高温高圧相が異なる.前者はテトラゴナル構造を持つ鉄二水素化物FeH2であり,後者はfcc構造のFeHx (X≦1)である.2) 圧力80万気圧以上, 温度1500 K以下の条件において,純鉄はhcp構造が熱力学的安定相であるが,水素枯渇条件における金属鉄ー水素系ではfcc構造が出現し,固溶する水素によりfcc構造の安定領域が高圧力に広がっていると考えられる.従来,金属鉄ー水素系における実験的研究では,用いる水素源の種類や研究グループにより高温高圧下で出現する安定相や化学組成が異なっており,その原因は明らかにされていなかった.本研究により,高温高圧下で金属鉄への水素供給が豊富にあるか否かに依り,出現する高温高圧相が異なることが明らかになった.また,この結果は,鉄水素化物に別の軽元素が存在する効果でfcc構造が出現するのではない,ということも示している.地球核に相当する高温高圧下での金属鉄ー水素系の相平衡関係は,水素リッチな環境と枯渇した場合で全く異なることが判明し,今後地球核中に存在する水素量の解明には,両方の系を明らかにすべきであることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
深部地球科学において,地球核に存在する軽元素の解明は,第一級の課題となっている.中でも,水素を含む実験的研究では,技術的困難さにより,現在においても高温高圧実験は限られており,相平衡関係など基礎的情報も含め,未解決な問題が多く残されている.初年度は,レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いた放射光高温高圧X線回折により,圧力100万気圧,温度1500 Kまでの圧力温度条件での金属鉄水素化物の相平衡関係と密度を決定することを目標に実験を進めてきた.本研究では,圧力発生は100万気圧に未到達ではあるが,80万気圧を越える圧力領域での高温高圧その場X線観察により,以下の新しい知見が得られた.80万気圧を越える圧力領域において,水素供給量が豊富な環境と枯渇する環境下では金属鉄中への供給可能な水素量が異なるため,その結果,出現する熱力学的安定な高圧相が異なることを明らかにした.それらは結晶構造と化学組成が異なり,水素を多く含む高圧相と少ない相の密度差は,0.73 g/cm3と非常に大きいことが判ってきた.また技術的開発として,高圧下での磁気特性・電子状態の物性測定を目標に放射光メスバウアー分光計測の高圧実験への対応のため,X線ビームの微小化を目指し,フレネルレンズ型X線屈折レンズの導入と評価試験を行った.集光されたビームサイズは,水平方向33ミクロン,鉛直方向 140ミクロンとなり,従来よりも微小サイズのビーム形成に成功し,今後の放射光メスバウアー分光法の高圧研究への応用に期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き,地球核相当の圧力領域で安定的に実験可能な技術開発を行い,そこでの放射光その場観察に注力する.具体的には,レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧発生技術と放射光X線集光技術を組み合わせた手法により,135万気圧を越える圧力領域での高温高圧X線回折実験を実現し,金属鉄-水素二元系における金属鉄水素化物の相平衡関係と密度,状態方程式を決定する.また,すでに明らかになってきた,水素リッチな環境と枯渇環境下での相平衡関係や密度の違いや圧縮特性への影響に関して,より広い圧力温度領域で明らかにしていく.上記の水素化物に対して,放射光メスバウアー分光法により,高圧下での電子状態・磁気的性質を明らかにし,その圧縮特性と密度への影響を解明する.これら実験結果に基づき,現在の地球の内核,外核の化学構造を明らかにし, 地震学の観測によって得られてきた情報を最もよく説明する地球中心核の物質科学的構成と温度構造モデルを構築し,地球核における水素存在量に制約を与える.
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Causes of Carryover |
当初計画していた高圧下での放射光その場観察実験において利用する付属装置が故障し,当該装置を修理する必要がでてきたため前倒し支払請求を行った.2年度目以降における実験を遂行するため,早急に当該装置の修理を実施する.
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Research Products
(4 results)