2020 Fiscal Year Research-status Report
脊椎強度測定用6軸材料試験機を活用した棘突起接触症の力学的特性解明
Project/Area Number |
19K04073
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
稲葉 忠司 三重大学, 工学研究科, 教授 (70273349)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脊椎運動 / 力学的特性 / 6軸材料試験機 / 棘突起接触症 / 実験的手法 |
Outline of Annual Research Achievements |
身体運動の軸機関および支持機関である脊椎の疾患に対する診断・治療において,脊椎の剛性を把握することは,適切な治療方針・手術手技を決定する上で極めて重要である.そこで本研究では,脊椎の剛性を力学的観点より客観的・定量的に評価することを目的とし,複雑な脊椎変形挙動を6軸材料試験機を用いて実験的に調査する.特に,本科学研究費申請期間においては,脊椎疾患の一つである棘突起接触症に着目し,棘突起の肥大化を伴う脊椎の剛性を明らかにすることに焦点を絞って研究を実施する. 脊椎は様々な安定要素から成り立っており,その一つに棘突起がある.棘突起は,椎骨の一部で脊椎の後方に位置しており,脊髄の保護や靭帯および筋肉の付着部といった役割を担っている.棘突起は加齢とともに肥大化することが報告されており,この肥大化が進行すると棘突起同士が接触する.この状態を棘突起接触症という.棘突起接触症は高齢者になるほど発生率が高く,棘突起近傍における骨折やそれに伴う痛みを生じることがある.さらに,腰部脊椎症や椎間板変性など他の痛みを伴う脊椎疾患の併発や隣接椎間障害の発生要因となることも危惧される.したがって,棘突起接触症を伴う脊椎の変形挙動を力学的観点より解析し,棘突起の肥大化が脊椎へ及ぼす影響を理解することは極めて重要である. そこで本研究では,棘突起の肥大化を伴う脊椎の剛性を実験的に明らかにすることを目的とする.この目的を達成するため,本年度は,昨年度明らかとした「棘突起接触症において生じる後屈方向の剛性増加」が,隣接椎間へ及ぼす影響について検討した.その結果,シカ屍体多椎間腰椎を対象とした前後屈方向の曲げ試験結果から,棘突起接触症では,疾患発生前と同じ角度まで後屈運動を行った際に,棘突起の接触により失われた責任椎間の可動域を補うために大きなトルクが負荷され,隣接椎間の可能域が増加することが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,棘突起接触症を伴う脊椎の剛性を力学的観点より明らかにすることを目的とし,複雑な脊椎変形挙動を実験的に調査する.本年度は,主として,昨年度明らかとした「棘突起接触症において生じる後屈方向の剛性増加」が,隣接椎間へ及ぼす影響について検討した.ここでの力学試験は,平成16・17年度科学研究費若手研究(B)の補助を受け開発した脊椎強度測定用6軸材料試験機を使用して,申請者および研究協力者(申請者の研究室に所属の大学院生)が行った.この試験機は,6組の垂直直動型アクチュエータによるパラレルメカニズムとエンドエフェクタ(手先部)に内蔵した荷重-モーメントセンサにより,任意の自由度において変位および荷重制御下での精密な力学的負荷試験が可能である.力学試験を行うための試験体として,シカ屍体多椎間脊椎を用いて,正常モデル,靭帯切除モデルおよび歯科用レジンにて棘突起肥大化を作製した棘突起接触症モデルを製作した.製作した試験体に,前屈および後屈のそれぞれの曲げ運動に対応したモーメントを負荷し,これらの負荷に対する試験体の変形挙動を計測した. 上述のシカ屍体多椎間腰椎を対象とした前後屈方向の曲げ試験結果から,棘突起接触症では,疾患発生前と同じ角度まで後屈運動を行った際に,棘突起の接触により失われた責任椎間の可動域を補うために,脊椎全体に大きなトルクが負荷され,上下の隣接椎間の可能域が増加することが分かった.このことから,棘突起接触症では,後屈運動においてのみ隣接椎間障害が発生することが危惧された. 以上の結果は,棘突起接触症を伴う脊椎の力学的特性を理解する上で極めて重要な知見であり,よって,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,本年度実施した「棘突起接触症を伴う多椎間脊椎の剛性評価試験」をさらに進めて実験データを蓄積する.この力学試験結果の蓄積により,棘突起接触症を伴う脊椎の剛性に関する確度の高い重要な知見,すなわち,棘突起接触症では,疾患発生前と同じ角度まで後屈運動を行った際に,棘突起の接触により失われた責任椎間の可動域を補うために大きなトルクが負荷され,隣接椎間の可能域が増加するとの知見が得られると考えられる. さらに次年度は,脊椎運動の力学的評価において,上述のような実験的手法を補完し得るコンピュータシミュレーションモデルの構築に取り組む.具体的には,代表的な数値解析手法である有限要素法を用いて,脊椎の曲げ試験より得られたトルク-回転角度の関係を再現し得る数理モデルの構築を試みる.この際,椎間板の力学的特性に注目する.椎間板は隣接する椎体の間に位置し,線維輪と髄核の二つの要素から構成される.この椎間板の力学的特性により,脊椎の曲げや回旋といった柔軟な動きが可能となるため,椎間板に変性や疾患が生じると脊椎の運動機能は著しく低下する.特に,椎間板に対する力学的負荷は線維輪によって支持されていることから,脊椎の運動機能についての理解には線維輪の力学的特性の把握が重要となる.本研究では,この線維輪の数理モデルを,動物屍体椎間板の単軸引張試験に基づき,非線形な弾性特性を有する超弾性体として構築することにより,脊椎運動の実験的研究を補完し得るコンピュータシミュレーションモデルの提案を試みる.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,2020年度に本研究に関連する研究成果を発表する予定であった学会(臨床バイオメカニクス学会および日本機械学会東海支部講演会)が,新型コロナウィルスの影響でオンラインでの開催となり,出張旅費が不要となったためである.少額であるため当初の使用計画に大きな変更はなく,実験消耗品等の物品費に使用する予定である.
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Research Products
(6 results)